□  酒蔵                                 平成14年5月7日



日本酒・地酒ブーム。酒は老若男女楽しみの対象、それだけきびしさが要求される。連休期間中、遠くからの来客用に品質・銘柄・ネーミング共に自慢できる地酒を買おうと知り合いの酒蔵まで出かけた。古い旧酒蔵を改造して数年前からオープンした食事処は満員、行列、空席待ち。しぼり立て利き酒コーナー併設の土産売り場も盛況。

造り酒屋は下手をすれば斜陽の一途。戦後の統廃合時代を始め、最近のワインブーム、地ビール、ディスカウントストアの登場、規制緩和・・・など、常に厳しい時代を生き抜いてきた業界である。単なる需要と供給のバランスの狭間にあるだけでなく、逆風の中できっちりと消費者の立場に立ったニーズと体験を探り当てながら戦略を練りつづけて来た業態としての酒蔵が生き残り、売れ筋となっている。「水・米・杜氏・・・」、時代と料理の嗜好にあったうまい酒造りは勿論のこと、ブランドのネーミング、ラベルの紙質、ビンの色・形、箱の選定・デザインどれ1つをとっても真剣勝負、究極の顧客満足を与えられるかいかんにかかわっている。

 5月5日産経新聞。欧米人初の女性利き酒師の記事。ペンシルベニア州立大卒。国際ビジネス専攻の女性取締役の長野の造り酒屋の売上20倍のサクセスストーリー。長野の小さな町に自ら飛び込んできた女性企業家の台風の猛威が吹き荒れている。現代的なオープンキッチンを取り入れながら徹底的にメニューと内容に「本物」にこだわった食事処。再現された利き酒コーナーでは、ステンレスのボトルを飲み終わったら店に持ってきてもらう「通いビン」の復活。酒蔵の古い伝統と分化を掘り下げ古いものを切り捨てるだけではなく、自信を持って現代に生かしていく眼差しの確かさ。成功して、この造り酒屋での居心地が良くなった今、「ぬるま湯にはつかりたくない。ハートの中にいつもお湯を沸かしていたい」と。

何気なく立ち寄った東京新橋の寿司屋で飲んだきりりと冷えた酒はうまかった。冒頭の地元の造り酒屋の若社長、「それはうまいのが当たり前、その酒は寿司屋の酒です。徹底的に醤油にいかに合わせるか考えぬいて造られた酒です。寿司屋でフルーティーな大吟醸は原則出しません。その酒は寿司屋でいかにおいしく寿司を食べられるかを考えて造られた銘柄なんです。」造り酒屋は真剣にきめ細かく、掘り下げた中で消費者に目が向いているかにかかっている。消費者は厳しく商品を吟味し、気を許すといつのまにかいなくなってしまう。地元のこの伝統ある造り酒屋がつくり出す地酒が売れない訳がない。本物の料理にこだわった食事処にお客がいる理由はここにある。



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