□  坪いくら                             平成14年5月22日



 日本人は、星空を見上げて星の位置を確認するのにも、無意識のうちに夜空に格子、グリッドを画いて星座の位置を確かめる。

 ‘坪いくら’。建築主と施工者との間で、先ず最初にかわされるやりとりである。施工会社の営業担当者は即ぐに、木造なら坪50万とか、コンクリート造なら、鉄骨造ならいくらとか、簡単に答えてしまう。最後までこの一言が大きな命取りになる。社内の設計担当者が次からの打合せに参加。施主からの要望にきちんと建設コストの事を常に説明する事もなく、施主は夢がどんどんふくらんでいく。吹抜けが欲しい、ペアガラス(複層ガラス)にしたい、システムキッチンは、曲面の壁までもつくってみたい…。図面が出来上がった時、工事金額を呈示した時の気まずさが大変だ。コストダウンを計るにも、もう時間は取り戻せない。最初の一言のおかげで、図面の全部作り直しか、下手をすると図面をかいただけで計画そのものが頓挫してしまう。

 ‘m3いくら’。建築は平面でなくて、3次元の空間である。建設コストには、建築の高さも影響すれば地面の下も影響する。4面に渡って外部から見られる建築なら、窓の開け方も大きく変わってくる。全面正面なのだ。壁と窓の量の相関関係はコストに大きく影響していくる。吹抜けがあっても床面積にはカウントされない。曲面ガラスを使えば、サッシュは1.5倍、ガラスは普通のガラスの3〜5倍かかる。地盤が悪ければ、地下室をつくる仮設工事も大変だし、杭の長さも、工法も影響してくる。ましてや空調方式は、要望によってかなりの幅がある。

 「坪」は土地の面積の表現である。いつの間にか建築全体のヴォリュームを表現する言葉になってしまった。‘間取り’といわれるように日本は柱の文化だ。グリッドの組み合わせ、平面的に内部と外部が一体となってつながっている。施主・設計者・施工者がいつも立体を意識するようになって、初めて正しいコストと建築の姿がつくられていく。



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