□  「対立」と「自立」                                 平成14年7月26日



 「対立」は背くらべ、背のびの概念であり、「自立」は自己の能力を高める学の体系づくりの概念である。

 戦後、アメリカとソ連は人工衛星がどちらが先に月に到達出来るか、国家間の技術競争、「対立」概念の中で競い合っていた。力の誇示、「対立」の枠組みの中で世界中、核の開発保有競争も行われつづけてきた。今ではベルリンの壁も崩壊し、冷戦状態が消えてなくなり、情報化社会はますます進み、世界は1つ、グローバル化の波は加速されている。対極を意識しながら行動に移していた「対立」のスタンスが薄らいでいる中で、国と国のむきだし「対立」のぶつかり合いを眼の当たりにすると衝撃度は強く伝わってくる。「対立」の構図の中で背くらべ、背のびをすることによって切磋琢磨しながら技術力は向上していったのである。

 60年代、70年代の建築の世界。霞ヶ関ビルを軸にして、超高層の高さを競い合うことによって、技術力は高められていったし、いかに長いスパンの橋の架構が可能か競い合うことも大切だった。デザインの世界でも西欧を常に意識しながら、世界に通用する日本国家が要請する巨匠建築家抬頭の歴史が戦後の建築デザイン史の一面であったかも知れない。東京オリンピック、大阪万博、東京都庁舎に関わった巨匠建築家 丹下健三は「対立」の構図の中から生み出された建築家である。最近は、何千という応募者が参加する国際建築設計競技で、最優秀案を勝ち取った建築家もデザインの質は評価されるが巨匠としての地位を確立する状況には殆んどない。

 2極化の「対立の構図」で思考することは手易い。もののない不足の時代から較べると生活ははるかに満たされ、多様な価値感「文化」が「醸成」された社会になった。もう少し進んで考えると状況は、デカダンスなのかも知れない。「対立」がなくなったからといって、「自立」できずにもたれ合い、寄りかかりの場面に出くわすと辟易する。「対立」の中でスケールメリットを生かしつづけてきた業界団体の在り方も、企業も、個人も「対立」から自己の能力を高めレベルアップする「自立」の思想、学の体系づくりの必要性、転換を迫られている。



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