□  白熱球と蛍光灯                                   平成14年8月21日



 建設事業投資を進めるのに、環境負荷までも考えて価値を評価する時代。初期投資、イニシャルコストを中心に考えて計画を実行してきたのが数年前まで、‘ライフサイクルコスト(LCC)’を考えた中での計画の是非が今の時代問われている。

 ‘ライフサイクルコスト’の定義は、「一定期間内の初期投資額、更新、取り替え費、運営費(光熱費含む)、およびメンテナンス経費と修繕費の合計額の投資の決定を、現在価値あるいは年間価値による経済上の観点から評価する手法である」。要は建設投資を経済的観点から評価する手法。ある一定期間内に建物を所有するのに必要な運営総コストをすべて考慮に入れて算出したものがベースである(「建設プロジェクトのコストマネジメント」日本能率協会マネジメントセンター発行)。

 ‘白熱球と蛍光灯’。蛍光灯が自然光に近くて目になじみやすいからという事を別にして、蛍光灯の方が白熱球より購入価格、初期投資は高くつく。蛍光灯の20Wが700〜800円、白熱球40Wが150円ぐらい。初期投資だけ考えれば断然白熱球が有利。‘ライフサイクルコスト’で考えてみると話はかなり変わってくる。初期投資電気エネルギー消費量、切れた時の球の取り替えコストなどを考えれば良い。白熱球は蛍光灯に較べて寿命は短く切れやすい。電気エネルギー消費量も白熱球の方が多くて、電気代が高くつく。取り替える手間、買いに行くコストまで考えれば、結局は何年間かたつと‘ライフサイクルコスト’は最初は高くても蛍光灯の方が安くなるという計算が成り立つ。

 ‘イニシャルコスト’に目が向いていたのがこれまでの建設投資。建設投資のうちの初期投資部分はほんの氷山の一角。建設投資は「隠れた部分」を見つめながら‘トータルライフサイクルコスト’を考え、本当の意味のコストの低減を考えなければならない。コスト縮減、コストダウンは時代の要請。「良いものは3倍のコストがかかる」(5月9日森の声)。初期投資は高くなっても‘ライフサイクルコスト’を考えた「良いもの」の評価が問われている。

□参考図書 「建設プロジェクトのコストマネジメント」佐藤隆良著 日本能率協会マネジメントセンター発行

□Appendix

 最近読んだ白熱球の懐かしい話…節約の時代。

 『あの頃のお正月は明るかった。…(中略)大晦日の掃除が終わった後、母が座敷の箪笥から大切そうに百ワットの電燈を取り出すと、私たち子供は、冷たい廊下を爪先立ちながら、ゾロゾロ母の後をついていったものである。まず茶の間の電気を消す。それから少し黒ずんだ60ワットを外して母が袂へ入れ、慎重な手つきでゆっくり百ワットに替える。スイッチをひねる。お正月のために畳を替え、障子も張り替えたせいもあって、見違えるように明るく、きれいな茶の間である。私たちはワッと歓声を上げる。茶箪笥の上の鏡餅がピカピカ光っていた。
 元の60ワットに戻ったのが、5日だったのか、7日だったのか、それとも15日だったのか―それは憶えていない。』
(「昭和恋々」山本夏彦、久世光彦、文芸春秋社刊、207〜208頁)

  

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