□  九州テクテク                                           平成14年11月6日



 先週、椎名誠のエッセイの言葉を借りて表現すれば、テクテク、九州に行ってきた。九州テクテク旅行、いや、他人が作ってくれた流れに乗った、行く先だけがわかっている、後はおまかせの九州テクテク移動だった。3泊4日だからそれなりに辛いものはあるし、全国から3500人ものおなじ立場の人たちが一堂に会しての大会、異様な雰囲気といえば異様。初めて会う人が大半だから面白いといえば面白いし、迎えるほうは1年かけて準備してきて準備万端整え、細かいところまで気配りが行き届いていて恐縮この上ない。すべて流れに乗っている分、気を使わなくて済む。そして何も考えずに、頭の中まで、テクテク、3泊4日が過ぎることになる。

 朝、それなりの時間に早く家を出て新幹線に乗って途中で何人かと合流。モノレールに乗って羽田。テクテク、ワイワイやってもう搭乗時間になると思い、喫煙室に行って吸えなくなるタバコを、名残りおしく吸いきって待っていても一向に搭乗案内にならない。今年の春から就航開始したスカイネットアジア航空。一日6往復12便。少しずつ、テクテク、遅れて夕方になるとかなり遅れはひどくなるらしい。1台の飛行機で運航のやりくりだからしょうがない。予定より1時間近くおくれて機内の人。小さめの飛行機、座席の幅も狭いし前後の空きも少ない。JAL、全日空に対抗しているから価格だけでなくサービスが違う筈なんて同乗者が言っていたけど結局おなじ。後で調べたら、価格は、ほかの航空運賃よりかなり割安。利用者の数が伸びなくて空港着陸使用料が7200万ぐらい滞納になっているとか着いたその日の地元の新聞に載っていた。

 経営がかなり厳しくなったと言ってもシーガイア、タイガーウッズがやってくるシーガイアに泊まるんだから、心はかなりリゾート気分。空港からバスに揺られて、たしかここのはずだ、と思っていたタワーになっているシーガイアを通りすぎて、アレアレ、と見過ごしているうちに着いたところはシーガイアでもゴルフリゾートのための宿泊施設。平日だから雰囲気は、テクテク、閑散としている、夕食を食べるところは一箇所だけ。九州に来て焼酎でも飲もうかって気分になるけど飲みつけない焼酎はどうも飲む気になれない、結局、飲みなれた新潟の酒。ほんとに、テクテク、一日疲れてあっという間に寝てしまった。翌日は、ゾロゾロ、ガヤガヤ、テクテク、3500人の大会。人の波、椅子は折りたたみ椅子、大会中、寝るわけにはいかない。3500人もギュウギュウ詰め、きっと酸素不足かもしれない。限りなく眠気は、テクテク、襲ってくる。何とか我慢して大会終了。リゾート気分は、歩くか走るかして、どこかで発散しなくてはと思っていたら、離れたタワーホテルにしっかりジムがあるのを発見した。早速、ジム服に着替えて筋トレ。これは楽しかった。海が目の前で人はほとんどいないジム。マシーンは大したことなくても、ダクダク、汗をかいてやっとリゾート気分。

 翌日からは、海岸の柱状節理を見るくらいで、一日中、テクテク、バスで事業視察。バスでじーっとしているのもかなり辛い。現地の担当者、バスに乗って、付きっ切りだから見ているだけで大変。厚いマニュアル本まで持っている。昨日の筋トレと大会と九州までの疲れが出たのか、バスの中、かなり眠い。寝かしておいてもらいたいのにバスガイド、かなりしゃべる。話し方の日本語に癖がある。アクセントが気になるのと、語尾に何とかよーっ」って言うのが気になってしょうがない。それでも昼にはこんにゃく会席、深い渓谷に何本も架かった橋梁を見学して一日が終わった。バスを降りて見学した橋梁は、見ごたえのある学会賞を取った橋。「ここの山の刈干しやすんだよー?」、特別仕立ての日本一の歌い手が歌う「正調刈干切唄は物悲しくて、ジーン、とくる労働歌。ピードンドンカタカタ、時間外の夜神楽も面白い。今夜の泊まりは、ゆっくり眠れるかと思ったら、風呂は3人も入れば一杯、とても湯船につかる気になれない。12時過ぎれば風呂には入れない、もちろん朝風呂も駄目。夜神楽を見た冷え切った疲れた身体は、なかなか暖まってこない。「なんとかよーっ」、昼間のバスガイドの声が厚さ2センチの薄い敷布団に横たえた頭の中を、テクテク、駆け巡っている、ガタンガタン、旅館の前を車が通るたびに建物全体が大きく揺れて地震がきたかと間違うほど、寝付かれない。カポカポカポッ、竹筒から注がれるカッポ酒は、それなりの雰囲気。それにしても山の中のこの旅館、夕食の羽が付いた本物の白い「蜂の子」には驚いた。ご馳走なのかもしれないが、平気な顔して、テクテク、食べてはいられない。

 テクテク移動の終わりが阿蘇を通って熊本空港。熊本アートポリスの一連の建築を見に何年か前、九州の北から熊本まで気合を入れてレンタカーで回ったときの記憶がよみがえる。あの時は九州まで夜行で狭い2階の寝台車。始めての体験で面白かった。一人でずーっと何百キロも車の運転、たどり着いたところが今回と同じ熊本空港。レンタカーを手放したら飛行機が急に飛ばなくなって、どうしてもその日に帰らなければいけない、福岡まであわてて電車を乗り継ぎ何とか家までたどり着いた思い出がある。今回は大丈夫。それよりも激しい「禁断症状」、流れに乗っただけで、他人とずーっと、テクテク、一緒だったから「一人で考える時間」と「文字」がない。搭乗チケット貰って荷物にならないお土産、チョコチョコ、と買って後は一目散に熊本ラーメン。本屋によってなるべく字数の多い雑誌を選んだら、面白いことに『考える人2』の季刊本、何で配本先でない熊本空港で売っているのかと思ったら、何代か前の首相夫人が載っていた。ロビーで買った「本」を読みふける「一人の時間」。帰りはJAL。3泊4日の九州、テクテク、ワイワイ、アレアレ、 ゾロゾロ、ギュウギュウ、ダクダク、テクテク、じーっと、「何とかよーっ」、ジーン、ピードンドンカタカタ、テクテク、ガタンガタン、カポカポカポッ、チョコチョコ、テクテク、テクテク、テクテク、流れるままにテクテク移動は終わったのである。

                                                         (青柳 剛)





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