□  「二項対立」                                               平成14年12月20日



 暖冬かと思っていたら12月に都心でも雪が珍しく何年かぶりに降り出したし、最近はかなり冷え込みがきつい。周りの山々はすっかり早々と真っ白くなってしまった。毎年夏の暑さはかなりきつくなってくるし、日本の天候そのものが子供のころと違って変化しているのは間違いない。それでも日本の気候は四季折々の変化が激しいから、暑さ寒さもはっきりしている。複雑な自然環境の変化にいかに順応していくかが日本人の生き方。メリハリがはっきりしていると言えばそうかもしれないが、別の見方をすると暑さ寒さも、変化をいつも飲み込んで同居した考え方、行動をする国民性もこんなところから身に付いてくるのかもしれない。

 対極的な思考をすると理解はし易くなる。「二項対立」の概念。表があって裏がある。建前があって本音、都市と地方、中心と周縁、右か左、保守か革新、和風と洋風、そして善か悪・・・数え上げれば思いつくだけでもきりがない。対立の概念を持ってくる事によって曖昧になっていた事が明確に浮き彫りになってくる。ところが現実はなかなかそうはならない。「二項対立」で理解できるほど単純ではない。表も裏も常に同居、何が保守だか革新だかそれほど明確にならないし、保守だと思っていても時と場合によって革新に変化していく。都市と地方で簡単に分ける事も出来ないし、都市も地方と一括りになりつつあるのが今の状況。中心であったのがいつの間にか周縁になっていたりその逆もよくある話。

 試験勉強を一生懸命やっている最中にあれこれ読みたい本、したいことが止めどもなく浮かんでは消えていく。終わってみると浮かんでは消えていった事がなかなか実行されたためしがない。ひとつの物事に向かっている時に別のことを考えたくなるのは恐らく誰にでもある話。別の人格が今の自分を支えている。「森の声」のこの文章を書いているのも別の自分。建築の施工と設計はつくる事は同じでも距離のある全然異なる世界。建設会社の経営者としての自分を常に支えているのは別の自分。だから建築デザインにいつも目が向くことはやめられないし、本を読む事ことと字を書く事もやめられない。

 「二項対立」で物事を理解する事はたやすい事。現実の世界はなかなかそうはならない。暑さ寒さも両方とも毎年体験しているわけだから、対極で物事を理解して終わるほど単純ではない。現実の世界を支えている別の世界の自分が居るから楽しくやっていける事になる。酒を飲めばすぐに別の世界。仕事をしながら遊んでいく。豪放磊落な人が繊細な驚くような趣味を持っていたりする。別のものが一緒になって同居している両義性。ごちゃ混ぜになっているから人生は楽しい。ジキルとハイドは象徴的。わかりづらい人の生き方がテーマになってきたのが本の世界。いろんな体験は本の中で出来る、本をたくさん読んでいる人との会話が一番楽しい会話となるのも十分うなずける。

                                          (青柳 剛)



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