□  裏日本の先進                                             平成15年2月19日



 もともと水の湧き出る場所に人は住み、集落を形成し、都市の営みを繰り返してきた。車窓から見える「川の流れ」の「方向感覚」は「流れ」と共に意識下の「求心性」をも変えていく。水は文化を育み、水の流れは住む人達の意識を変えて行く。「地方都市の自立」が叫ばれ続けてきても日本中同じような景観が形作られてきたのは、「自立」のための意識が脆弱、東京モデルのコピーの意識から抜けきれない結末だといっても言い過ぎでない気がする。

 用事があって秋田。8ヶ月間で三度の秋田訪問だから少ないほうではない。それでも本格的な冬の秋田は始めて。準備はしなくてはならない。長靴履いて新幹線という訳にも行かない、滑り止めつきの防寒靴まで買った。秋田新幹線だから仙台、盛岡にしか止まらない。三時間弱で盛岡に着く。かなりの時間の短縮。盛岡から秋田に向かいだすと一気に車窓の風景は雪景色一面。芸術村のある田沢湖あたりから雪はぐっと迫ってくる。去年の5月は残雪があるだけだった気がするのと大違い。角館を過ぎ、大曲で乗り換え在来線に乗って横手まで。途中カメラを抱えた人達が大勢乗ってきたと思ったら丁度各地で雪祭りの時期。時間でも距離感覚でもない、田沢湖あたりの車窓から見える「川の流れ」が日本海に向かって流れているのを眼にすると東京モデルから解放された遠く離れた「裏日本」にやって来た感覚は本物となる。

「角館の先進」高橋克彦。新幹線の座席に置かれていたJR東日本の雑誌「トランベール」。「角館の人々の頑固とも言える潔さも感じる。・・・(中略)それをしないのは歴史を重んじているからだ。その証拠に角館は全国に先駆けて町並みの保存と取り組んできた。多くの市町村が道路拡張や中央資本の企業誘致に躍起となっているときに、角館は歴史を守ろうと努力を重ねてきたのだ。そしてそれが今では全国の地方都市の手本となっている。時代錯誤と思われていたものが実は先進だったのである。」そういえば角館はもちろん萩もそうだし、全国で頑なに「地方都市の自立」を目指し街並みの風景を保ってきた小京都とも呼ばれる各都市は「川の流れ」が逆の「裏日本」に多くかたちづくられて来たような気がする。

自分が住んでる地域は関東地方の最北。目が向いているのは東京。新幹線で一時間余りで東京。確かに便利、十分可能な通勤圏かもしれない。秋田ほどでもないけど寒いし雪も降る。谷川連峰はじめ山々に囲まれていても中途半端に都会、そして田舎の典型的な地方都市。郊外店と大型店と空き店舗、そして街中再生、薄っぺらな光景の検証が求められている。「川の流れ」が日本海に向かって流れているのを眼にしたそれまでと違ったまったく別の「裏日本」の感覚。東京モデルからやっと解放される感覚なのかも知れない。「川の流れ」から伝わってくる「求心性」の感覚まで遡らないといつまで経っても「都市の自立」は果たせそうにもないし、東京モデルのコピーから一向に抜け切れない。水は文化を育み、水の流れは住む人達の意識を変えて行く。いつの間にか時代が変わり、「裏日本の先進」もこんなところから来ているのは間違いがない。

                                          (青柳 剛)



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