□  おやんなさいよ、でもつまんないですよ                                   平成15年4月30日


 兜町の風雲児とも云われている松井証券の松井道夫社長の話を聞いた。24日、当日が松井証券の決算発表の日、証券業界全体が厳しい状況の中でかなりの収益、経常利益で約四十数億の決算を出したことには驚いた。松井証券の規模は社員数200名足らず、兜町の証券業界約280社中の中ではビリから二番、ブービーの位置にある。1995年松井証券の社長に就任した。一橋大学経済学部卒業、日本郵船に11年間勤務した後、80年の歴史のある松井証券に入社した婿養子、義父に社長就任を申し出たときの義父からの言葉が「おやんなさいよ、でもつまんないですよ」。

 義父一族が松井証券の株を90パーセント以上保有している典型的なオーナー一族経営だった。1995年社長就任とともに義父を、今までやってきた会社のやり方を、全否定することから始まった。外交営業廃止、証券業界横並びだった各種手数料の引き下げ、それまでの業界の慣習や旧来の常識にとらわれないビジネスモデルを構築したのである。98年小口の顧客から始まる株の売買、インターネット取引「ネットストック」を開始、99年10月手数料完全自由化の波に乗った松井証券は以来飛躍的な業績を小さい会社ながらも伸ばすことに成功し続けてきた。

 ゴールは別のところにあった。証券業界が目指している行き着く先は巨大証券の後を付いていけばいい。みんなで巨大証券と同じことをやっていれば間違いはない。巨大証券の目指している先が証券業界のゴールだったはず。マラソンを例えてみれば走り方を変えてみる事によって違ったゴールが見えてくる。沢山の営業マンを抱えて顧客廻りを常に続けることによって顧客をクロージングしていく方法が20世紀型の巨大証券の勝者だった。供給者中心の論理で顧客を囲いこむ20世紀型の商売は逆に顧客からスポイルされていく。供給者自身が損をするためにはどうしたらいい、供給者が損をするんだから顧客は得をすることになる、素直な考え方。20世紀型の巨大証券の常識の逆の経営を考えるパラダイム変換、小口の投資に目を向けていく、巨大証券の向かう所と別のところのゴールに目を向けてきた。

 「おやんなさいよ、でもつまんないですよ」は80年の歴史の中、いつも横並びで企業経営をやらざるを得なかった、先代経営者のアドバイス。引き継ぐまでの会社の体質が旧大蔵省の指導の中で規制、保護の中で生きてきたからつまらない。旧大蔵省の規制と証券業界の枠組みにがんじがらめに縛られていた。誰かがやるまで待とうは責任の先送り、やってみなければどれが正しいかわからない、間違えてたらごめんなさい、開き直りとも思える社長の決断が大事。勝ち続けるといつかは負ける、負け続けると勝ちも大きい、勝ったら辞める。「今が50歳、60歳になっても松井証券の社長続けていたら負けたことになる」とは社長の思い入れと自信の裏返し。「おやんなさいよ、でもつまんないですよ」と言われて引き継いだ松井証券、ゴールはいつも常識とは別のところにある。

                                          (青柳 剛)



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