□ 「三日大工」と「二十年大工」                                         平成15年6月23日


 久しぶりに内外打放しコンクリートの建築を施工している。平面が緩やかな扇形で屋根はヴォールトのコンクリートで打ち放しだから施工はかなり大変、施工図を考えただけでも複雑になってくる。きちんと配筋が出来なければ流し込むコンクリートは満遍なく廻らない。もちろん型枠がきちんと建て込めなければとんでもないことになってしまう。目違いがあってもならないし、型枠の締め付けもきつすぎても緩すぎても駄目、コンクリートを流し込んだときに型枠がはらんだり、びくついたりしてしまう。コンクリートを手間隙かけて上手に流し込んで始めてきれいな打ち放しコンクリートの建築が出来ることになる。要は現場の技術者とそこで作業に従事する技能者のチームワークの取れた技術にかかっている。たまには難しい技術にチャレンジしていかないといつの間にかものづくりの「技術の伝承」からかけ離れて行ってしまう。

 建築の生産性向上は言われ続けてきた。生産性向上と表裏一体なのが価格。いかに建設工事の工期と価格を下げられるかにかかっている。安値受注の皺寄せが最後に集約されてくるのが建設工事の重層構造の中で技能労働者。いろんな職種をなるべく少人数の同じ人がこなしていけば生産性と現場にかかるコストは下がっていく。鉄筋、型枠、土工事一人で何でもこなせる多能工の存在に目が向けられてきた。「三日大工」と「二十年大工」。今はそうでもないが人手が足りない、お金もかけられない工事の中で言われてきた象徴的な「三日大工」。集めてきた作業員、一日目は現場の清掃ぐらい、二日目はもう型枠を運んでいる、そして三日目にはゲンノウを持って働いている状況を指している。住み込みから始まって何年もかけて修業しながら一人前の技能者、「二十年大工」になっていく状況は今の建設生産システムの中から消え去りつつある。

 現場の技能者の技能の向上のために国が設けた技能士制度と基幹技能士制度、どちらも効果的な処遇は保証されていないし制度自体が後ろ向きになりつつある。厚生労働省管轄の制度が技能士制度、6年前に出来た国土交通省管轄の制度が基幹技能士制度、現場の技能者の評価制度だから同じ評価を二つの制度で重複していることも無理がある。技能士制度は建設業許可の申請に役には立つ、基幹技能士はまだそこまで行っていない。本来は技能の向上に伴って現場の技能者の処遇も良くなっていくことを目的に作られた制度。現場の体系がそうなっていない。一級技能士だから一日の賃金がいくら、資格のない人はそれより安いが本来の姿。総体でいくらの勘定の世界だし、ましてやいかに生産性を向上させてコストを下げていくかが今の状況だから技能士を評価することが入り込む余地もない。ますます「三日大工」と「二十年大工」の区別はなくなっていくし、技能士、基幹技能者も減りつつある。

 手間暇かけてじっくり考えながら施工精度の高い建物をつくり上げていくのが技能者としての職人の世界。打ち放しコンクリートの建築はすべての職方が良いチームワークを保たなければ決して仕上がらない。元々ものつくりは一品一品丁寧に作り上げていくのが基本。現場生産を工場生産のウェートに振り替えて生産性を向上していく方法はひとつの解決策。それでも現場の肝心の手作業まで均一省力化されてはたまらない。「三日大工」と「二十年大工」の距離がますます近づいている。内外打ち放しコンクリートの建築現場、コンクリート打ちも綺麗に全部終了した。後は仕上げ工事だけ、ハラハラしながら難しい技術に腕のいい現場の職人と一緒になって考えチャレンジしていく精神が日本の伝統的な「技術の伝承」の基本である。この辺をじっくり検証しなければ安易にPFI導入という訳にはいかない。

                                          (青柳 剛)

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