土と木と鉄とコンクリート                                           平成16年2月18日


 ものすごく乱暴に平たく言ってしまえば地方の建設業のものつくりの技術は「土と木と鉄とコンクリート」。「土と木と鉄とコンクリート」をいかに上手に組み合わせるかにかかっている。「技術と経営に優れた企業が伸びられる環境づくり」、1993年6月の中央建設業審議会の建議あたりから言われ続けてきた。もちろん技術者を育てることなくただ受注するためだけの不良不適格業者を排除する事がひとつの目的、最近話題になった青色発光ダイオードみたいな特殊な技術を求めている訳ではない。それでも最近は一歩進んで、差別化された技術をと求められても「土と木と鉄とコンクリート」の組み合わせの技術だからそう簡単には建設業にとって他社との差別化された技術は発揮できそうもない。改めて「地方の建設業の技術は何か」と問うて見る必要はありそうだ。

 ラグジュアリービジネス。苦労して売っていく売り方の話がないからつまらない。世界に名だたるブランド品を取り扱っている日本の会社の社長の講演会を先日聞いた。名前も売れているブランド品を取り扱っている会社だから不況だと言っても売り上げは確実に伸びている。何百年と言う歴史もあるし品物の技術は完璧。デパートの一画、25坪から30坪のエリアでブランド品を売っていた営業戦略を転換し、独自の建物をつくりブランド品を販売していく戦略の話が大筋であった。同じ統一した店のつくりでは、お客は慣れて面白さが色褪せていく。ファサードから始まってすべて自由な店作りの戦略の話である。店舗そのものもブランド化。誰も真似の出来ない品物、誰にも超えられない優秀な歴史のある技術を抱えているから話題性は事欠かないし、業績は伸び続けている。それでも惹きつけられる話の中身は少ない。「ブランドとしての頼る技術」が工夫した売り方を消していくからつまらない。

 カリスマ美容師がいなくなってから人気が出だした西日本の美容室の話こそ面白い。技術の高いパートナーの美容師が突然止めてしまった。売り物の技術が無くなったんだから人気は落ちていってしまう。頼る技術が無くなったら、見えてきたのが徹底したお客へのサービスの仕方。そんなに高度な技術がなくてもお客の心は繋ぎとめることが出来る。心の教育訓練、従業員一人一人の心の優しさを追い求めた。顧客管理票を充実させる事によってお客のすべてが分かる、コーヒーにシュガーが必要かそれとも紅茶か、家族構成はどうなっているか、家の中の出来事は、趣味は何なのかすべて書き留めてある。髪をセットする2時間、お客との会話にきめ細かい顧客管理票が威力を発揮する。夜の何時でもお客の都合に合わせて予約を取っていく。夜の7時で終わり、なんてことはしない。みんな目が輝いて働いている。すべてお客の側に立ったサービスの仕方を模索する事によってお客の心を掴み取ることが出来たのである。消えたカリスマ美容師の高い技術、「お客の立場に立った当たり前のサービスの仕方」が浮き彫りになってきたから面白い。

 「地方の建設業の技術は何か」。最近は価格だけでない入札制度がかなりの割合で導入されてきた。総合評価方式もそのうちの一つの方式。「技術は工期だ」(森の声、平成14年6月20日)。確かに分かりやすい。工期を短くするのはすべてにとってプラスに働き、評価される項目である事は確かだ。地方の建設業にとってのものつくりの技術は「土と木と鉄とコンクリート」。評価されて差別化される技術は簡単には見つからない。ブランド品に匹敵するものは誰も持ち合わせていないし、青色発光ダイオードが発見できる筈もない。難しい事を考える事はない、答えは見えている。単純に考えればいい。お客がいて「土と木と鉄とコンクリート」を組み合わせる組み合わせ方のプロセスのやさしさが求められているのである。結果としてのつくる技術はみんな同じようなもの、違うのはつくるプロセス、プロセスで差別化されていく。人がつくる「土と木と鉄とコンクリート」、「差別化される技術」を発揮しようがないから面白いのである。


                                          (青柳 剛)

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