熱い名古屋                                            平成16年6月16日


 一括りにしてしまう考え方は、考えることが逃げていく。ましてやレッテルを貼ってしまえば一瞬にしてレッテルですべてを了解したような気分にまでなってしまう。この一週間、名古屋の話題が自分の廻りで起きていた。実際、名古屋駅の新幹線のホームをうろうろしていたし、名古屋在住のにたような規模の建設会社の経営者とも会っていた。その後聞いた講義が「名古屋が駄目な日本を救う」。梅雨の合間なのにやはり名古屋は熱い、ホームは湿気と共にうだるような暑さだった。新幹線は熱気と共に「のぞみ」「ひかり」「こだま」と音を立てて発着を繰り返している。どの新幹線も平日なのにビジネスマンの乗客は途続く。名古屋の熱気は、外気温の所為ばかりだけではない、名古屋特有の「活気」がそうしている。「活気」の原点を「名古屋人」「愛知県人」と危うさを脇に押しやって一括りにして考えてみる必要はありそうだ。

 データを調べればすぐ分かる。愛知の県民総所得は全国で上位から2番目、確かに底力がある。そしてデフレの時代は長く続けば続くほど「名古屋人」を豊かにしていく。愛知県の本社がある上場企業150社の会社四季報を見れば半数以上の企業が無借金経営、今でこそ全国に無借金の波は拡がりだしたが上場されるほどの規模の会社の無無借金経営には驚かされる。借金はしない、自分の財布の中身を計算しながら行動していくのが「名古屋人」。もともとけちなのかもしれない。けちはこんな時代、どんどん資産を増やしていく。借金をした人はデフレになっても借金の総額は変わらないのは当たり前、借金をして土地の価格はますます下がり資産は目減りしていく。けちな「名古屋人」はデフレで価格が下がった品物を手に入れ、消費を支えている。けちで借金をしない体質が「名古屋人」を豊かにしている、こんなところが「活気」の原点かもしれない。

 えげつないほど儲けていると揶揄されるほど羨望の目で見られるのが「トヨタ」。名古屋に「活気」があるのは「トヨタ」が日本一だから。「トヨタ」が名古屋経済の大きな牽引力になっているのは間違いない。「トヨタの社員は海外で死ねと思え」は、グローバリゼーションを真正面から受け止め、プラスとして捉える姿勢の現れ。グロバリゼーションが「トヨタ」の経営改革のバネになっている。そして今の時代の経営の求められているのが、技術に執着するイノベーション。グローバリゼーションとイノベーションに如何に対応していくかにかかっている。この2つに真剣に向き合うことによって「トヨタ」の底力は計り知れないものがある。「トヨタ」を牽引力にした名古屋経済が歩む道も同じ道、グローバル化を視野に置き、絶えず変化を求め新しいものに挑戦しながらものづくりにこだわる姿勢が、単なる地方の経済に過ぎなかった名古屋経済の風土を変えつつある。

 名古屋のホームで外気温と共に感じた「熱気」は、名古屋経済の「活気」に裏打ちされたもの、3年前に知り合った同じような規模の会社の経営者も3年前とまた同じようなことを言っていた。「何とか仕事はありますよ。中部国際空港関連工事だとか、万博関連の仕事で年度内は何とかあります」。そういえば来年の2月には民間の知恵を出し合った中部国際空港が出来上がる。空港へのアクセスは他の空港とは較べられないくらい良いアクセス条件だとも言われているし、航空貨物の取り扱い料も格安になりそうだ。新しいものに、飛びつかず、バブルにも踊らず、先人のよき教えをコツコツまじめに受け継いで、常に足元を見つめて努力してきた「名古屋人」。地域的にも名古屋人は日本の真ん中、グローバリゼーションとイノベーションにますます拍車がかかり、「名古屋モデル」は「地域モデル」から「日本のモデル」へと羽ばたき始めた。うだるような「熱気」だった名古屋駅のホーム、名古屋の「活気」から目が離せないことだけは確かだ。


                                          (青柳 剛)

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