雪の感覚                                                    平成17年2月3日


 今日と明日の天気予報でさえ外れる事があるから、長期予報が外れるなんて仕方がない。そうは思っていてもあまりにも外れるとがっかりする。冷夏かも知れないと思っていたらとんでもなく暑かったリ、そうかと思えば去年はいつまで経っても台風が終わりにならなかった。何度も風水害を引き起こした台風の次にやってきたのが新潟中越地震、天変地異とは去年一年の事を言う。そして、今年の冬は暮れの調子なら暖冬、雪なんかろくに降らないと期待まで込めていたら何年かぶりの大雪に見舞われている。少し南に行けばほんとにカラカラ天気、東京に行けば歩く速度まで早くなる。ほんとに身体まで縮み、地方の生産力が落ちるのはこんなところにあるとまで思ってしまう。いろいろ嘆いていても仕方がない、予報なんてこんなものと思えば少しは気が楽、閉じ込められた「雪の感覚」と正面から向き合えば別のものが見えてくる。

 雪との壮絶な戦いの生活の歴史をフィールドワークの中から記述したのがあの有名な鈴木牧之の「北越雪譜」。「北越雪譜」のフィールドはまさにあの中越地震の被災地そのもの、最近のニュースを聞いていれば今年はほんとに辛い。先日もどこかの新聞の一面下段コラム欄に「北越雪譜」の冒頭を引用した記事が載っていた。土を掘るように雪を掘ることの繰り返しが「雪堀」、繰り返さなければ歩く道もなくなってしまうし、家も埋まってしまい外に出る事が出来なくなってしまう。そしてそのままにしておけば家そのものが壊れてしまう。そんな長い間の「雪堀」の厳しい環境に正面から向き合って生まれてきたのが越後上布。ちょうど良い冷たさと湿気の中から生まれた雪の精気の産物である。「雪中に糸となし、雪中に織り、雪水にそそぎ、雪中に晒す。雪ありて縮みあり。されば越後縮みは雪と人と気力相半ばして名産の名あり。魚沼郡の雪は縮の親というべし」。(北越雪譜)

 ビジネスの世界でも降ってきた雪を「逆境」と置き換えてみればサクセスストーリーが見えてくる。財部誠一の「神戸製鋼」復活の連続レポートシリーズ(テレビ朝日―サンデープロジェクト)は面白い。バブル崩壊と共に鉄鋼産業が痛手を被っている時に襲ったのがちょうど10年まえの阪神大震災。立ち直れないほどの強烈なダブルパンチ、すぐさま落ち込まずに打った手が一日も早い鉄鋼部門の工場の建て直しと新たな分野、電力供給部門への進出だった。特に新分野、電力供給部門への進出への決断とその後の山あり谷ありのプロセスは面白い。今では電力部門だけで毎年50億円以上の利益を生み出していると言う。すばやい立ち上がりと果敢にイノベーションへと挑戦する気持ちが今の「神戸製鋼」を支えている。自分の回りを見ても、民事再生法になったどこどこの会社の姿勢は一気に変わった、社員の真剣さも前と較べて見違えるようになった、全社一丸・・・、「神戸製鋼」ほどではなくても「逆境」を糧にした話は沢山ある。降ってきた「逆境」こそ次のステップへと飛び出す踏み台になる。

 雪に埋もれて毎日雪がちらつけば否応なしに考える。外れた予報の事を悔やんでも仕方がない。閉じ込められた「雪の感覚」から這い出る事を考える。これから2月、3月と真っ白な越後の雪原に繰り広げられる「汚れを晒す」越後上布の「雪晒し」は太陽と雪の間から発生したオゾンを利用した知恵、国の無形文化財にまでなっている。綺麗な水から出来る雪国の格別の味の酒を人は待っている。そして冷たい雪解け水で出来る雪国の米の味は格別。「入ってたんせー」とどんよりした重い空の下から声をかけてくるほのぼのとした「雪明かり」の秋田横手の「かまくら」、冬の東北の三大祭にまでなった。閉じ込められた「雪の感覚」、北欧フインランドだってそう、あんなに綺麗なロウソク屋が何軒も並んでいるのは雪を真正面から受け止めた美意識、光への憧れ、サンタクロースだってここから生まれてきた。北欧の照明デザインは光の質が違う。世界的に著名な建築家アルヴァ・アアルトが生まれたのも雪のフインランド、アアルトの微妙なカーブと光の取り込み方は北欧を訪れた「雪の感覚」を抜きにして語れない。閉じ込められた「雪の感覚」、いつも早足で歩いている都会の感覚とは違ったものを生んできた。

                                          (青柳 剛)

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