早稲田大ラグビー                                             平成18年2月15日


 ラグビーの日本選手権、久しぶりに拳を握り締めながら興奮した。ロスタイムの最後の2分間の攻防は凄まじいものがあった。手に汗を握るとはあの2分間の事を言う。心技体、特に技術力と経験ではトヨタの選手が勿論上回っている。上回ったトヨタの選手が最後の2分間にかけてきた猛攻撃を必死に早稲田は守り続けた。前評判は五分と五分、ひょっとしたらと言う早稲田OBの贔屓目の期待はあったが、又、去年のような結果に終わってしまうかも知れない。学生チャンピョン早稲田大がトップリーグのトヨタ自動車に真っ向勝負を挑んで28対24のワントライの差で奇跡の勝利をした。学生チームが社会人上位チームに勝つのは18年ぶりという快挙だった。史上最強と言われる今年の早稲田ラグビー、11月も正月も見にいけなかったから今度こそはと思っていたが、現場に居合わせなかったことが悔やまれる。興奮冷めやらない気持ちは誰にでも喋りたい、早速、翌朝の早朝月曜会議にも反映された。

 前半、風向きは早稲田にとって順風、若さで早い攻撃に出た。顎の骨折から再起した五郎丸の決めた2つのペナルティーゴールで早稲田が先攻した。勝負に勝ちに行く手堅いこのペナルティーゴールの効果は最後まで大きかった。まさかと思う左ラインアウトからのドライビングモール、押し込み切ってbWの佐々木のトライ、あっという間にすり抜けて中央右にトライを決めた曾我部も良かった。マイボールラインアウトは殆ど早稲田が決める。トヨタはラインアウトを決めることもなかなか出来ない。終わってみれば前半は21対14、これは本当に勝ちに行けそうだって気分になってくる。後半は逆風、トヨタのプライドを懸けた猛追が気になる。去年は残り10分で逆転負けした。試合は予想どおりトヨタの反撃が続く。必死で耐える早稲田、タックルでしのぐ。フラベルのシンビン(10分間退場)も味方した。何度も早稲田陣営ギリギリでゴールラインを背にしながら、ワンゴール差で迎えたロスタイム、トヨタの遠藤がノックオンした瞬間ノーサイドの笛が秩父宮ラグビー場に響き渡った。テレビの画面からさえ観衆の絶叫が伝わってきた。

 今年の早稲田ラグビーは清宮克幸監督就任5年目、最後の集大成と言われてきた。アマチュアがプロに勝つ、それはいかに「勝てる組織」に改革できるかだった。そして清宮ラグビーがつくりあげてきたチームはビジネスの手法を取り入れた組織作りとも言われてきた。目標をきちんと定める事、定められた目標に対して数値で示す事だった。全てデータ管理、ビデオ映像を分析する。ボールの動き方、ミスの回数、攻撃の正確さなどを数値化したシートを示し練習内容を明確にする事で選手のやる気を引き出していく(毎日新聞2月9日)。「アルティメットクラッシュ」(徹底的に叩きのめす)がチームのスローガン、シーズンごとに、試合ごとに「テーマ」も決めていく。決めたスローガン、テーマをマスコミに言いまくり選手をその気にさせていく。選手のやる気を徹底的に引き出させる「夢」を語りながら、常に緻密な分析と戦略に練られた分りやすい目標設定とその成果を評価する。ビジネス理論そのものの清宮ラグビー、「勝てる組織」をつくりあげれば必ず結果は出せると言うことを見せ続けてきた。

 翌日の新聞は休刊日、火曜日のスポーツ欄は早稲田ラグビーを称える記事で一色になった。記者に早稲田出身がいかに多いかを感じさせそうな興奮した記事ばかりだった。それだけ学生が社会人に勝った意味は大きい。思い起こせば早稲田のラグビーが気になりだしたのは早稲田に入学したての頃の体育の講義、大西鉄之祐監督の話を聞いた時からだった。その当時も早稲田は強かったし、特に軽量フォワードで勝ち抜いていくチームづくりの話は面白かった。あの時は、大怪我をしてラグビーが出来なくなった仲間のためにチーム全員が結束したのである。まさに「One for All, ALL for One」の精神だった。それ以来のラグビーファン、早稲田大に行けばラガーシャツまで買ってくる。その後、一時期低迷していた早稲田のラグビー、この数年は違うぞと思いながらも競技場に見に行けば際どいところで負けていた悔しい気持ちが拭えなかった。今年こそは清宮ラグビーの5年目総決算、計算されつくされたチームの組織力、アマチュアがプロに勝つ、「勝てる組織」の強さをまざまざと見せつけている。歓喜と涙のラグビー日本選手権、あの興奮はしばらく抜けそうにない。



                                          (青柳 剛)

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