けんちく世界をめぐる10の冒険                                      平成19年2月13日


 金沢21世紀美術館の売店コーナーで買った本だからその気持ちは一層強くなる。「けんちく世界をめぐる10の冒険」(彰国社)−伊東豊雄の本のことである。文庫本でもなく、既製の大きさにも当てはまらない。12.8cm×12.8cmの正方形の形が気に入って購入した。この大きさも正方形のグリッドを本の大きさからも表現したくてデザインしたのだと納得をする。帰りの「ほくほく線」の車内で読みきるにはちょうど良かった。読みきった後、今の建築界をリードするのは伊東豊雄なんだろうなあとつくづく思う。金沢21世紀美術館の建築は、話題にはなってもきっと時代背景を的確に反映しながら時代をリードする建築にはなりえない。金沢21世紀美術館の売店コーナーで売られていた12.8cm角の小さい本に書かれていた伊東豊雄の考えとデザインが日本の建築デザインを世界でリードする。

 我々の建築世代がレファランスした建築家は、丹下健三を始めとして吉阪隆正、篠原一男、槙文彦、菊竹清訓、そして磯崎新だったし原広司等だった。その中でも、すぐ上の世代で気になっていた建築家が伊東豊雄だった。1976年に発表された「中野本町の家」はその当時衝撃的だった。U字型の平面計画で間仕切りのない大きなワンルーム形式で、内に向かう都市型住居の形式を提案した。片流れ屋根勾配と湾曲した壁、スリットから差し込む光の白い空間構成は見事だった。生活のにおいは、マッキントッシュのラダーチェアと共に消えていた。空間のダイナミズムな構成とはこの事を言う。その何年か前に発表していた「アルミの家」は生生しさが残るデザインだったが、住まいの個室のあり方と光のとり方を直截的に建築化したことで分かりやすい建築だった。既成のデザイン感覚に捉われない住まいのあり方と空間構成を呈示するコンセプチャルな姿勢が気になっていたのである。

 その後、1986年の横浜駅西口の「風の塔」はパンチングメタルと照明で構成され、風と共に変化する「風の変容体」とも言われた。2000年の「せんだいメディアテーク」あたりから床、壁、天井、柱、梁といった従来の建築の持つ構造的な仕組みそのものを問いかける作品が発表されだした。外皮としてのガラスから透けて見える斜めの柱というか水平面を突き抜ける線材と仙台のケヤキ並み木の重ね合わせが問いかけるものは大きい。これをコンクリートに転化させたものが東京・表参道の「TOD'S」だし、スティールとコンクリートで表現したのがピンクの外壁の銀座3丁目の「MIKIMOTO」、柱を立てて梁を渡しその上に床を載せるといった建築手法に捉われない「非・建築」のあり方を問いかけだしたのである。

 金沢21世紀美術館が白い円とボックスの組み合わせを提案しても建築の枠を超えられない。表参道ヒルズの建築家、マスコミ受けはしても建築のあり方を問いかける建築家にはなりそうもない。「けんちく世界をめぐる10の冒険」・・・わたしたちの街に建つ建物はどうでしょう。殆どが、水平な床と決まったピッチで並べられた柱、そこにはまるガラス窓や間仕切壁・・・・、といった構成で出来ています。これがグリッドシステムです。この幾何学的だけで成り立つ工業的な仕組みは技術の進歩とあいまって、20世紀の間に世界中に広がりました。きれいに出来てはいるけれどどこに行っても同じ、味気ない空間ばかりが繰り返されます。自然の面白さを盛り込んだような、もっと自由な建物は出来ないのでしょうか。例えば積層されたような洞窟のような集合住居。どこでどんなことをしようかと、身体に訴えかけてくるような建物です。そこで、20世紀のグリッドシステムに代わる新しい仕組みを考えます。このゆがんだグリッドシステムをエマージング・グリッド(生成するグリッド)と名付けます。3次元曲面のみで構成されるトポロジカルで自由なグリッドです。・・・・・伊東豊雄、エマージング・グリッドからつくり出す官能的な空間、日本から発信するグローバルな建築家が世界をリードする。「アルミの家」から「Vivo City」(シンガポール)まで、生産性に裏打ちされた「非・建築性」がその思いを強くする。


                                          (青柳 剛)

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