□ 手間暇(てまひま)かける営業                                                       平成19年10月15日


 時代の流れは、ウエットな部分を出来るだけ切り離し、ドライな社会へと向かっている。ここ数年、ビジネスの進め方はまさにこういった方向へと向かってきた。人間関係をビジネスに割り込ませない、割り切った関係の中でのみビジネスを進めていくことの重要性が言われてきた。最近は企業におけるコンプライアンス精神の徹底も一層拍車をかけている。確かに友達関係だけでビジネスの取引が成立するのもおかしな話だし、ましてやウエットな関係が深まっていけばいくほど行き着く先は癒着へと結びついていく。それでもドライな関係だけでビジネスを進めていくという考え方が持つ危険性は限りなく価格に眼が向きがち、もう少し言えば安い価格のみでビジネスを決定する社会になってしまうことである。

 建設産業の中でも特殊な分野、住宅部門の強化にここ数年エネルギーを投入してきた。そんなに棟数を急に販売できるわけもないが少しずつ、少しずつ実績を重ねてきた。かなりの時間住宅業界について考えてきたから、それなりの情報も蓄積されてきた。羨ましいのは、棟数を急激に伸ばしている企業である。売上高も上がれば利益も上がり、どうしたらそうなるか必死で考える。大量の営業マンを投入すればもちろん結果は出そうな気がするが、効率よく少ない人数で受注棟数を上げるのは大変だ。そうなると眼が向き出すのが価格、いかに安い価格で顧客の心を一気にひきつけようと走り出す。長い時間をかけて顧客と付き合うわけに行かないから、安い価格こそ分かりやすい営業手段となる。このあたりが顧客と3回の面談で契約申込書に判を押してもらうのが自慢の営業担当者が現れてくる所以である。

 決して安い価格ではないし、どちらかといえば高めの部類に入る住宅を販売している。価格が高い分だけ顧客はなかなか返事をしてくれない。今まで顧客とどんなに短い期間のふれあいでも半年はかかってきた。一生に一度の大事な買い物だから顧客が悩むのは仕方がない、そのうえ価格も安くないから納得するまでに時間がかかる。棟数も急激に伸びていくなんてことはありえない。納得するまでにいろんなツールを使うことを考えるから営業担当者の資質は上がっていく。展示場案内から始まり、基礎から始まって躯体まで見せる現場見学会、実際に住んでいる家に連れて行きOB施主の意見まで訊いて貰う。その他に3ヶ月にわたる勉強会・「住まい塾」にも参加して貰う。ふれあいの時間は長い、お互いの距離は深まりながら近づいて、ようやく晴れて住宅の着工となる。

 ドライな関係だけでビジネスを進めていけば陥りやすいのは価格だけの世界、誰でも安ければ良いと思っていても、ものつくりの分野には当てはまらない。顧客と会って3回目に契約できたといって、棟数と営業マンの成績が上がっても、納得したのは価格だけだったからその後はうまくいきそうもないのは眼に見えている。思い描いていたものと齟齬が出てくるから、建築中から不信感は醸成され、挙句の果てにクレームだらけ、裁判沙汰になる危険性まで孕んでいる。価格の高い住宅を販売するための努力は、安い住宅に較べて何倍もかかる。それでも良い人間関係がつくられ、納得しながらのものつくりにはクレームは少ない。量は売れなくてもコツコツと「手間隙かける営業」に眼は向いていく、クレーム処理のストレスを考えるだけで憂鬱になる。

                                          (青柳 剛)

ご意見、ご感想は ndk-24@ndk-g.co.jp まで


「森の声」 CONTENTSに戻る