□ 絵画館前の銀杏並木                                                                平成20年11月29日


 今日の話はラグビーと世界に誇れる銀杏並木の話である。秩父宮ラグビー場に恒例の早慶ラグビーを観に行ってきた。今年1月の大学選手権、早稲田大ラグビーの優勝シーン観戦から、もう、早慶ラグビーの時期になった。1年が経つのは早い。雨まじりの寒い中、久しぶりの早稲田大優勝の興奮を1週間ぐらい前だと思うのは大袈裟だとしても、ついこの間だったような気がする。バカみたいな満開の桜が咲き誇り、昨日まで夏の暑さが続いていたと思っていたら、この11月23日の早慶ラグビーが終われば12月、本格的な冬が来て、もう正月のラグビーシーズンになる。月日が経つのは早い。秋の早慶ラグビー観戦は、初めての体験だが、どうにもならないほどの寒さと違って丁度いい。そして、ラグビー観戦後、絵画館前、絵葉書のような景色の銀杏並木を青山通りに向かって歩けば本格的な秋を満喫できる。

 僧房筋が張って胸囲も厚く、足の太いラグビー体型ということもあるのか、ラグビーを観戦することが好きだ。この時期から年明けの2月までの間、毎週日曜日のテレビ観戦が楽しみである。ラグビーが好きになったきっかけは1970年、大学の体育の授業で大西鉄之佑の講義を聴いたときからである。早稲田大優勝までのストーリーと部員全員の心がひとつになって感動する逸話は面白かった。そのとき以来のラグビーファンである。サッカーと違って得点数も多く、変化が起きやすい。ラグビー体型のぶつかり合いも迫力がある。何といってもごついラグビー体型の選手がボールを抱えて走りだす時のすばしこさと足の速さには感激する、到底真似の出来ないスピードだ。このシーンを見たくて足を運ぶのである。

 試合の余韻を引きずりながら歩く絵画館前の銀杏並木の通りがいい。黄色く染まった銀杏を眺め、銀杏を踏みしめる感触は最高だ。国立競技場の時にはこうはならない。千駄ヶ谷の駅に向かって歩くからこの楽しみはなくなる。ところで、建築のデザインか都市計画に関わった人ならば誰でも知っていることだが、世界に誇る東京でも1番のこの秋の銀杏並木のスポットは丹念に計画立ててつくられた風景であるということである。樹齢100年、146本の銀杏並木が絵画館に向かって少しずつ並木の高さが低くなっている。建築用語で言えばパースがかかっているのである。奥行きを深く見せ、絵画館前の空間を大きく表現する遠近法が施されている。絵画館へと向かう銀杏並木の拡がりが一層大きく表現されている。整えられたこの手法が世界に誇る銀杏並木の都市的な洗練性を歩く人にとって与えてくれる。

 考えてみれば、これはと思う世界に誇る風景はみんな手間隙がかかっている。計画立ててつくられるから貴重な場面を演出することが出来る。きちんと裏づけが出来ている。その分、しっかりと金もかかり、技術力も求められる。造園家の湧井雅之が「天然記念物の松の剪定を価格の安さだけで業者を選んでいたらとんでもないことになる」と象徴的に語っていたことの意味は大きい。試合の結果は34対17で早稲田大の勝ち、前半は負けていたから辛勝と判断するのが正しい。それでも、選手のぶつかり合いの息吹も聞こえたし、スピード感も味わえた。タックルにめげずに走りぬけた4年生田中の走りは良かった。選手と一体になったどよめく会場の雰囲気はテレビでは味わえない醍醐味だ。そして、試合の余韻を引きずりながら絵画館前の銀杏並木を歩いて青山通りに向かっていく。深まりつつある秋が終わり、身の引き締まる冬が又やってくる。
(青柳 剛)

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