□ 高崎 桜山小学校                                                                   平成21年5月25日


 東京から中途半端な距離にある所為か、群馬には著名な建築家の作品は少ない。思い当たるだけですぐに行き着いてしまう。それでも最近は若手建築家の作品が群馬発として建築専門誌にも載るようになってきた。そんな中でもこれから先、かなり話題作となりそうな「高崎 桜山小学校」の建築家フォーラム主催の建築見学会に行ってきた。昨年度、長野「茅野市民会館」で建築学会賞を受賞し、今注目を浴びている建築家古谷誠章(早稲田大学教授)の設計である。「旧中里町役場」、「中里中学校体育館」に続いて、群馬では3作目の作品である。建築を学びだしたとき、お互い寝食を忘れて議論した仲間の1人が古谷誠章である。以前から設計の考え方を話し合っていたこともあり、特に丁寧な設計プロセスを大事にする建築家のスケールの大きい作品であるから直接建築を体験する期待は高まった。当日は春というか初夏の陽射しを感じさせるほどの暑い日、見学会日和だった。

 建築のデザインの面白さは住宅設計に尽きるといわれるが、それ以上に誰もがチャレンジしてみたい建築は小学校建築である。小学校建築をうまくこなせれば建築設計のすべてが理解できるのである。それだけさまざまな要素が入り組んでいるということである。複合機能を持っているのが小学校建築であり、この醍醐味は中学校建築でも、高校建築でも、大学の校舎建築でも味わうことが出来ない。小学校建築ならではの機能と形態の丁寧な設計方法が求められるのである。集合としての形をどう整えるかに始まって、低学年と高学年の分離と融合をどう計るか、外部空間も巧みにどう分離するか、地域にどう開放できるか、そして授業の形態もそれぞれ異なってくるから解決しなければならない課題は多い。繰り返される平面計画の練り直しをどれだけ積み上げたかによって小学校建築の設計がスタートすることになるからこそ面白いのである。

 延べ床面積9,450u、「桜山小学校」の外壁は殆んど打ち放しコンクリート仕上げ、施工プロセスの苦労が伺える。内部では木とコンクリートの対比が緊張感の中に温かみを出している。平面計画はジグザグ型、小学校建築には特異な形態だ。1階には地域開放も可能な特別教室群、2階にオープンスペースで結ばれた普通教室群によって構成されている。ジグザグによって生まれてくる空間の効果を引き出す手法はさすがに上手い、中庭としての外部空間と内部空間の関係が巧みに演出されている。装置としてのスロープがある低学年用のプレイグランド、音楽室・家庭教室から見渡すピロティーとなった芝生の中庭、ちょっとした集会の出来そうな階段のあるオープンデッキ、どれもネガティブな空間になりそうな外部空間を逆に生かしきっている。内部の廊下はすべて行き止まりのない回遊性、子供たちがいつも触れ合いやすい構成になっている。

 昔から古谷誠章の性格は穏やかだったし、常に論理立ててものごとを考える性格だった。建築にもこの人柄が表れている。設計・工事期間中の4回に亘る児童と建築・教育の大学院生との地道なワークショップも特徴的である。オープンデッキでの見学会に先立っての説明もわかりやすかった。聞いていて誰もが理解できる話し方には説得力がある。なぜ北側に学校建築にありがちなハーモニカ型の一列配置にしなかったか、からっ風からどう守るか、3方向から児童が登校するから3箇所の出入り口、児童の増減に対応した教室の配置、通風のために工夫した可動窓など、丁寧な語り口は設計そのものに細やかに反映されていた。見学会日和の春の一日、久しぶりに古谷誠章と交わす会話も楽しかったし、建築設計の基本「むずかしいテーマをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」、建築家フォーラムのテーマそのものの小学校建築が出来上がっていた。群馬発の話題作の建築が、またひとつ出来上がったのである。(青柳 剛)

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