□ 建設業20万社は多い数か                                              平成21年12月18日


 11月9日の業界各紙によれば、「建設業者数実質20万社体制でも過剰」「生き残りをかけて頑張るか、他業種に転換してもらうしかない。頭の切り替えが必要だ」(前原国土交通相)との報道がなされていた。この20万社という数は本当に多い数なのだろうか?公共投資のあり方を考える議論の中で、需要と供給のバランス、公共投資削減と建設業者の数はセットで考えなければならない。「人口減少、少子高齢化、財政赤字」の3点で公共投資を見直せば削減せざるを得なくなってくる。そうなってくると、供給者としての建設業者の数の問題になってくるが、「建設工事施工統計調査」によれば、建設業許可を持っている建設業者の数は、平成11年度末のピーク時で60万社、それから減り続けて平成20年度末では51万社弱の15%の減少となっている。建設業就業者の数も総務省の「労働力調査」によると平成20年度末約537万人でピーク時の平成9年の685万人から約22%の減少、平成21年9月では503万人と前年同月比約20万人の減少となっている。それぞれのピーク時の平成9年度と平成11年度までの需要と供給の相関関係はタイムラグ、反比例の変化が起きているが、官需民需を含めた建設投資額が平成4年度の84兆円のピーク時から平成21年度の見通し47兆円にまで下がり続けると共に、ここ数年は建設業者数と就業者数もきれいに正比例の関係で下がり続けている。

 51万社に対して、報道された実質20万社という数字はどういう数字なのかというと、これも「建設工事施工統計調査」調べによるが、一言で言えば、1年間で実際に建設工事に携わったことのある建設会社、年間完工高100万円以上の建設業者の数である。ただ単に許可を受けている建設業者の数と違って実際に建設業として稼動している実数である。ピーク時にはこの数字は平成10年度で32万社だった。実数としての建設業の減少率66%は総体の許可業者数の減少に較べてはるかに多い。実際に建設業を営んでいる会社が消えて行った事を表している。もう少し細かく見てみると、いくつかの県にまたがって営業拠点を置く大臣許可業者は、ピーク時の8433社から6813社と減少率は80.8lとそれほどでもないが、知事許可業者の減り率が軒並み60%台で全体の減少幅を押し下げている。資本金の小さい企業、そして地方の建設業が建設市場から撤退を余儀なくされていった結果を読み取ることが出来るデータである。

 それでは公共投資削減、政策に直接影響される建設会社のことはどうなっているのかと調べてみることが大切になってくる訳だが、昨年公共工事に携わった会社の数は20万社から一気に減って全国で6万8537社(保証会社調べ)である。この数字を多いと見るかどうかで政策のありようは変わってくることになるが、都道府県の数で単純に割れば各県単位で1400社平均になる。もちろん東京、大阪、神奈川などでは数が多い分1000社を切った県も青森・秋田・山形・石川など何県かある。公表されていない数字だが、群馬に限ってその内訳を調べてみると、総体の会社数は1266社だが、一般土木建築の会社が139社、土木だけの会社が459社、舗装10社、建築のみの許可を持った会社が20社、合計で628社が昨年1年間で公共工事を請け負ったことになる。1266社に満たない数字は公共工事の中でも電気・設備・塗装・造園などの専門工事業者と建設コンサル業者が請け負った数である。同じように全国の6万8537社の内訳を分析してみれば、公共工事を請け負う土木建築の業者数はかなりの数狭められた数字となることが理解できる。

 もう少し身近に当てはめて細かく見てみると、群馬の628社の数だが、町村単位のどんな小さな公共工事でも請け負った数だから、この中には売上高が1千万、2千万円の企業も数多く含まれている。群馬の行政単位の12地区で単純に割ってみると40社平均になりそうだ。地方の公共工事主体の企業の役割は、良質な社会資本の整備に加えて災害・除雪時の対応という役割があるが、そのすべてを担うことの出来るギリギリの数として40社平均で可能かという議論が生まれてくる。628社から外れた電気・設備・塗装・造園その他の会社はもちろん、建築主体の会社も災害時には主力な力にはなりえない。その上、あまり小さな規模の会社では到底その役割を果たすことが難しい。例えば除雪、ここ数年の建設不況のあおりを受けて廃業を余儀なくされた会社の受け持ち区間を担当することによって、かなりの数の企業がその受け持ち区間が長くなり、30キロ以上の路線を受け持っている会社の数は見渡しただけでもかなりの数に上りだしたのである。

 「建設業者数実質20万社体制でも過剰」との報道は業界各紙が取り扱い、国会でも論議されていた。今まで業界の数の減少を担当官庁の側から促すような発言は皆無だったから業界に走った衝撃は大きい。右往左往する状況だ。それでなくても群馬では相変わらず倒産企業のトップを占めるのは建設業、ここにきてじわじわとその数も月平均5〜6社から7〜8社に押し上がって来た。景気刺激策としての効果も薄れはじめ、最近では公共工事主体の企業の破綻も目立ちだした。民需といえば、住宅着工棟数も1時期の140万戸から今年は80万戸を割り込みそうな気配だ。マンションの建設需要は群馬では去年の12月から着工棟数ゼロの月が1年近くに亘って続いている。最近の景気動向を見ているとこのあたりが回復するのには時間が掛かりそうだ。建設業者数51万社の実質内訳20万社、その中でもすぐに政策に影響されそうな公共工事受注の数6万8千社、そして群馬の割合を全国に単純にかけてみると実質地域と一体になった会社の数は3万5千社を割り込んでいく。この数の建設会社が果たしてきた役割と地方の関係をじっくり分析しないと簡単に建設業者の数を論じるわけにはいかない。それでも減少の加速を更に進める政策がとられるならば、寡占化を踏まえたうえでの建設産業の仕組みを構造的に入れ替える青写真が提示されなければならないのである。(12月2日建設通信新聞)(青柳 剛)

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