□ どうする意見交換会?                                                       平成22年4月26日


 「時計の針を逆戻りすることは出来ない、先祖返りするようなシステムに戻ることはもうあり得ない」。公共投資についてのあり方のことを言っているのだが、この辺の考え方をきちんと正面から見据えたところから議論は始まるのである。それまでもそうだったが、去年の夏の政権交代以降、改めて「人口減少 少子高齢化 財政赤字」の3つのキーワードを真ん中に据えてみると、公共投資の量は今後減ることはあっても増えていくということはあり得ないということを認識しなければならない。そして、建設産業を取り巻く様々な政策が政治主導になったということもあるが、受発注者間の距離が益々拡がりそうな勢いになってきたということは否めない。新年度に入り、例年通りならば、これから各地で出先の事務所から始まり、県単位、そして地域のブロックごとに意見交換会が行われていく。そんな中で、意見交換会そのものの是非がいろいろな場面で聞かれるようになってきたのである。

 「あらかじめ提示された資料からはみ出た意見を言っても、答えはただ聞き置いておくだけ」、「公共投資の量の確保が何といっても第一、しかしながら、その要望を聞いてもらう場にはなりえない」、「シナリオ通りに決められた中で会議が進んでいく、これでは本音の実態を把握する意見交換になりようがない」、「フリー討議の時間も限定されていて、発言しにくい」、あとは「決定済みの制度設計の資料の説明に終始してしまう」などなど、受注者側から聞こえてくる意見交換会に対する消極的な意見はこんなところである。発注者サイドの意見もおそらくこういった意見をそのまま裏返しにした意見が出ていると思って、そんなに外れていない。受発注者間の意見交換会は、そもそも当たり障りのない形式的な意見交換会の場に陥りやすいが、去年の夏の政権交代以降、発注者側が意見交換会で出た意見に対して、柔軟な受け答えが出来にくくなってしまった状況も意見交換会のあり方を問う声が出てくる要因として挙げられる。

 「今、地方の建設業界で起きていること」と題して、一昨年の12月に講演会を行った。「受注者サイドから見た発注者の技術者に対する問題点を中心に話を」ということで引き受けたが、たっぷり、持ち時間1時間半ということもあって、問題点をかなり事細かく説明をすることが出来た。業界側の生の意見を100人近くの発注側の技術者に対して、直接話をする機会が設けられたということはいい企画だった。業界の状況から始まって書類の簡素化、工期が確定しない、現場の技術者不足とモチベーションの低下、国民目線に立った仕事の進め方、そして調達の仕組みなどとじっくり話をすることが可能になったが、締めくくりの言葉は受発注者間で埋め合わせることの出来ようもない差異について話をして終わりにした。つまり平たく言えば、自分に支払われるお金の流れが見えていないのが発注者サイドの技術者、年がら年中自分の給料はどこから出ているかを気にしながら、その流れがいつも見えているのが受注者サイドの技術者であるということであり、これはいつまで経っても埋められない溝なのである。

 誤解を恐れず大まかに言えば、例え明日地球が滅亡するかもしれなくても、花の苗を決まった通りに植え続けるのが行政の人たちの役割、それに対して、花の咲きそうな蕾の数をいつも楽しみにして数えているのが民間の経営者である。受発注者間で公共投資を通して同じ仕事に関わりあいながら進めていることになるが、官民の間では基本的なスタンスの違いは大きい。似ているようでも厳然とした差異がある。受発注者間の意見交換会、ここに来てあり方そのものが問われる時代になったが、そのままにしておけば、もともと基本的なスタンスが異なるわけだから、双方の距離は益々拡がっていかざるを得ない。そして、時代の変化と共に意見交換会の中身を工夫していかなくてはならないことはもちろんだが、後戻りを求めるような議論をし続けようと思う気持ちが抜け切れないから、消極的な姿勢が芽生えてくる。「どうする意見交換会?」。新年度が始まりこれから行事が進められていく。基本的な差異があるからこそ、官民双方、積極的に関わり合っていかなければならないのである。(建設通信新聞 平成22年4月19日)(青柳 剛)

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