□ 夏まつり                                                         平成22年8月14日


 「10年はひと昔、暑い夏♪ おまつりはふた昔 セミの声♪ 思わずよみがえる 夏の日が♪ ああ今日はおまつり♪」急に井上陽水の曲、「夏まつり」が思い浮かび、夏まつりに行きたくなった。そういえば、ここ何年も地元の夏まつりに出かけていない。去年は肺炎による母の入院騒ぎで夏まつりどころではなかったし、自分も39度を超える夏風邪の高熱で寝込んでいた。その前の年も主催する会議の準備と運営に終われ、帰ってきたらもうおまつりは終わっていた。夏まつりは8月の3、4、5日と毎年3日間連続で行われる。帰省客のことを考え、「金・土・日曜日に振り替えたらどうか」という意見もあったようだが、「神事の延長のお祭りは決まった日に」という意見で決められた日に続いている。子供のときからそうだったから、このおまつりの歴史はかなり古いものがある。山車・御神輿・屋台とどこの地域でもある夏まつりだが、普段閑散とした街中が、「どこにこんなに人がいたんだろう?」と思わせるほどに賑やかになる。

 折角の夏まつり、ひとりで出かけるよりは何人かで出かけたほうが楽しいし行きやすい、そう思って近所に住む甥の子供2人を誘うことにした。小学4年生の男の子と小学2年生の女の子の兄妹、連れて歩くのには丁度いい年頃、人混みでも迷子にならない年齢だ。それでもこちらの姿が人混みでも目立つようにと思って、白いTシャツの上に「GAP」の真っ赤なタンクトップを着て半ズボンにした。これなら分かりやすい。夏まつりには何といっても、陽水の曲のようにお小遣い、500円玉をふたつずつ入れ、「おまつりお小遣い」と書いた小さな熨斗袋を持って夜の7時に迎えに出かけた。妹は祖母に買ってもらった赤く染め抜かれた浴衣を着て待っていた。3人で手をつないで出かけてみると街の中は予想通りに人混みで溢れかえっている。それまで歩きながら良く喋っていた妹は、雰囲気に圧倒されたのか、急に口数が少なくなってしまった。「かき氷」でも食べればおまつりの雰囲気にすぐ溶け込める、「何がいい?」と聞くと兄妹揃って「ブルーハワイ!」と大声で答えたので、同じ「かき氷」を早速買ってやった。兄妹は色も味も同じものがいい。

 食べだすのかと思ったら妹は口をつけないでいる。どうしたのかと聞くと「歩きながらだと食べられない」そうだ、浴衣を汚すのが気になるらしい。御神輿の休憩所に行って、座らせてもらいながら食べることにした。それにしても人が多い、しばらく山車やら御神輿を眺めるうちに「かき氷」も食べ終わった。人混みの流れに乗って歩き出す。スポーツ店の前でしばらく小学生用の公式サッカーボールの話を兄に聞き、屋台で妹はクレープを食べ、そのあとは兄妹揃って「らくがきせんべい」に挑戦、ピンク・緑・黄色と色とりどりの砂糖が載った甘い大きな「せんべい」が出来上がった。順番待ちだったからこれは子供に人気がある菓子だった。隣を見ると「金魚すくい」の店、「夏まつりには金魚すくい」と思って兄妹を誘っても躊躇っている、どうも初めてのチャレンジらしい。それでも200円ずつ出して「金魚すくい」を始めた。兄が元気良く2〜3回掬ったら紙の網はすぐに穴が開いてしまったが、妹は水に漬けられないで紙の網を握り締めて固まっている。7〜8分も固まっただろうか、「さあ頑張ろう!」と背中を軽くたたいてやって、水につけたらあっという間に穴が開いてしまった。

 結局は1匹も掬えなかったが、金魚2匹ずつ小さなビニール袋に入れてもらって2人とも喜んでいる。時計を見るともう8時半を廻っている。そういえば、人通りも少しずつ減ってきたような気がする。そろそろ帰らなければならない。帰りがてら、どうしても「ピカピカ カチューシャが欲しい」と妹が小さな声で言い出した。玩具屋に立ち寄ってみるともう売り切れ、代わりに残っていた「ピカピカ ペンダント」を買ってやった。「そうか兄には何もない」、来るときに得意になって説明していた「公式サッカーボール4号を記念に買ってやろうか、高い買い物だがきっといい思い出になる」、そう思ってスポーツ店に急いで3人で戻り、買ってやったときのうれしそうな、得意気な顔は最高だった。人混みと熱気の中、今年の夏まつりは夕立にもならずに、それこそ夏らしい暑さの中で終わった。夏まつりが終わると、少しずつ秋の気配が漂いだす。何年かぶりに出かけた夏まつり、翌日の2人からの伝言ノートには「ボールありがとう」、「おまつりたのしかった」とだけ書かれていた。短い一言だが、「う〜ん、2人ともいい夏の思い出になりそうだ」、そんなことを考えながら今度は陽水の「少年時代」、「夏がすぎ 風あざみ♪ 誰のあこがれにさまよう 8月は夢花火♪ 私の心は夢模様♪」と口ずさみ、そこまで来ている秋の気配を探しだしている。(青柳 剛)

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