□  クレームレター                         平成14年5月14日



‘訴訟社会’での建設工事。建設工事の一層の透明性が問われている。入札制度を始め、情報公開、もののつくり方、いろんな意味の透明性が。あいまいさをなくすためには、コストとプライスの問題は避けて通れない。これからは折にふれて書いていく。日本の社会の仕組みでも言いたい事はきちんと言うし、そのかわりやることはきちんと実行するという、甲乙双方で対等に責任を全うし合うという社会に確実に向かっている。建設業の請負という制度自体もあやうくなりつつある。

先週、約10年間海外の低開発国で建設工事に携わってきた建設会社の所長クラスの担当者の話を聞いた。海外ではそもそも図面が出来てから全部をゼネコン請負というよりは基礎工事、躯体工事、何階まで、といった段階発注方式から異なる。何はともあれクレーム、クレームレターの処理に忙殺されてしまう。工事の図面の間違いが発見される。そのまま気付いても気付かなくても、工事は進行していく。結果、当然やり直し、クレーム工事が発生する。追加工事の金額にすぐ換算される。図面の間違い、ミスは外国のエンジニアにとって、おいしい汁で儲けのたねになってしまう。当初金額の工事が倍になり、工期がそのために遅れるのはあたり前。こんなところに発注者保護のためもあって、イギリスでCM(コンストラクション・マネージャー)制度が発達している理由もある。極端に言うと、自分が儲け、相手がいかに損するかだ。

日本の技術者はクレーム処理が下手。与えられた工事期間、工事金額を守り抜き良い工事をするために図面はつねに先に先にとチェックを入れる。修正を追いかけながら、日本企業だけが頑張って仕事をする。しかもあいまいなところは、工事をする側で泣きをみながら飲み込んでいく。クレーム処理が下手だから、早く日本に帰りたいがためもあって必死の努力を繰り返す。当然の結果として、工期内に予定コスト通りに仕上げたんだから胸をはって次の工事も受注できる筈だと日本では評価される。外国ではそうはいかない。あれだけ苦労したんだから、次はその企業に頼むと損を取り返しにくると評価されて、受注に結びつく可能性は少ない。正しい評価に結びつかないのが海外の建設工事。

海外から日本に帰って来た建設技術者は、契約に基づいて、専門工事業者をぎゅうぎゅうやって、利益をあげよう、発注者にもクレーム追加工事はきちんと主張しようと意気込む。ところが日本の契約関係はまだそうはなっていない。あいまいな契約関係が醸成されている。お互いに良い意味でのあいまいさが残っている建設工事の仕組みなのである。旦那的な発注者は金を出すけど口は出さない。出来上がったものを信頼して受け取るのが請負の原点。少しぐらいのことはのみこんでしまう文化の土壌はまだしっかりと残っている。日本で弁護士で一級建築士の資格を持っている人はまだ1人しかいない。



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