□  74年前の杭                             平成14年6月10日



 先週、芝浦工業大学の先生がリュックの中から出した、ビニールで丁寧に梱包された直径30p、厚さ4〜5pの木製の円盤には驚かされた。旧丸ビル(丸の内ビルディング)の木製の杭を輪切りにしたものだそうだ。

 東京駅のそばの新丸ビルは、殆どもう全容を現している。今年の9月6日にオープンする。地下4階、地上37階建、約160,000uの丸の内界隈のコミュニティ・コアとして新しく生まれ変わる。旧丸ビルは77年前、発注設計三菱地所梶A施工者フラー建築会社によって建てられた。常に時代の移り変わりとともに、映画の背景になったり、多くの人の出会いの場、街を楽しむ場として十分その役目を果たし続けてきた。日本のビジネス拠点のパイオニア、先導役であり続けてきた。

 時間の移り変わりを考えた長寿命化、ライフサイクルコストをマネージメントする必要が言われだしてかなり経つ。躯体−鉄骨・柱・梁をいかに永くもたせるか、新しい設備機器との互換性にいかに耐えられるか。目に見えるものの寿命を考えることによって、TOTALなコストを考えることに終始しがちだ。1999年5月に掘り出された、オレゴン州製の松ぐいは5000本。直径30pで、15mの長さで群ぐいとして旧丸ビルを74年間、一生支え続けたのである。抜かれた杭の並ぶ現場に立ち会うと、全く腐敗はなく、木の香りまでが発せられていたと言う。

 法隆寺のひのきも、削れば当時の香りをかもしだす。耐力の8倍の設計強度を発揮していた旧丸ビルの松ぐい。しっかりと多くの人の出会いがある建物を支え続けてきた「松ぐい」の断片には感動した。長寿命化、目に見えないものが支えていることも忘れてはならない。

  


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