□  自転車                                 平成14年6月24日



 いかに人間の力を上手に伝達するか、それ一点にデザインの目的が収斂されることによって‘かたち’は美しくなる。自転車は人間がより速く、自由に走り回りたいためにデザインされた‘機械の美学’と言っても言い過ぎでない。

 県庁所在地。競輪が定期的に開催される。川沿いの信号の少ない道路を競輪の選手が練習で走り込む姿は美しい。鍛えられた小さな肉体で、シャープなメタリックな自転車をこいでいく姿を、車から横目に見ながら走りすぎる。機能主義の権化だ。東京の白金台のホテルにおいてあったレンタサイクルも、泊まるたびに一度乗ってみたい衝動にかられている。BMW、ベンツなどの自転車だ。早朝の白金台のなだらかな起伏に富んだ屋敷街を風を切って走り抜ける心地よさは、きっと何事にも変えられない爽快感のような気がする。歩道の中にきちんと自転車専用道路用に分けられたコペンハーゲンの街。日本人ではとても足の届きそうもないサイクリング用の自転車で颯爽と通勤する男女の格好良さに憧れる。

 自転車が発明されて185年。自転車には大きく分けて3つある。メタリックなスポーツ車、ミニ軽快車(俗に言うオバチャン自転車)、幼児子供車だ。殆どが日本ではミニ軽快車が大半を占めて売られている。最近はミニ軽快車もかなりデザインが洗練されたものも出回っている。ミニ軽快車のデザインのコンセプトはメタリック性をいかに消し去るかにかかっているといわれている。自転車のデザインモデルが年間にかなりの数出ていることはあまり知られていない。デザインモデルが多く考えられることによって、自転車ほど流行に敏感なかたちはない。ファッションがモノトーンなら自転車もモノトーンのデザインが、パステルカラーならパステルカラーへとすぐに主流になる。

 4qもある現場を行ったり来たりするのに、土木技術職員が折畳み自転車を車に積んで移動していた。綺麗に磨き上げ会社の店頭に飾っておいたら、なんとなくファッショナブルな感じがして雰囲気は変わった。自転車には‘機能とかたち’インダストリアルデザインの原点がある。



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