□  変数と共通項                               平成14年6月25日



 ‘共通項’の中に‘変数’といった設計手法が街並み、群造型を考えるのに有効な方法となる。建築が周囲の環境文脈に配慮しだした初期の代表的な作品、秋田相互銀行角館支店(設計宮脇檀建築研究室)。「土蔵に合わせること、恥ずかしながら一歩も二歩も後退してエスキースはここから始まった。街の模型の中に幾つかの模型がはめこまれる。どの模型もピタリと街の中に溶け込んでしまい、カメラのレンズをのぞいて思わず叫んでしまう。‘俺の建物はどこにあるんだ!?’」(「新建築」1977年5月号 日経アーキテクチュア2002.6.10)

 伊勢の‘おかげ横丁’の街並み。お伊勢参りの人たちが訪れる。38軒ほどの店舗が建ち並び、江戸末期から明治初期の伝統を残しながら新しい街が平成5年に再生した。五十鈴川沿いに構成され、街は濃密になり門前町の‘界わい’として雰囲気をかもしだす。道もゆるやかにカーブして、適当にアイストップとなって自分の位置が分かり、電線も地中化、歩いていて気持ちが良い。伊勢地方の雨風の強さを防ぐために下見板張りをたて桟で押える「きざみ囲い」と妻入り瓦屋根の組み合わせで、新しい街並みが再現されている。‘共通項’は「きざみ囲い」と「妻入り瓦屋根」。‘変数’は商品とのれんである。

 街並みは自然発生的に生産技術に支えられながらかたちづくられていく。同じ技術、工法、材料でつくられていった日本の美しい街並みは全国で小京都と呼ばれる。京都の町屋、萩、金沢の武家屋敷、秋田の角館、飛騨の高山、伊豆の松崎町…全国各地に点在する。連子窓の繰り返し、白壁の連続、同じかたちの萱葺き屋根、瓦屋根が複層する。自由の許されない‘共通項’の中にずれ、差異の表現―住み手、個人の表現としての‘変数’、のれん、提灯、看板、とびらのデザインがうめこまれる。

 ‘共通項’の中での個人主義としての自己表現の‘変数’。秋田相互銀行角館支店で建築家宮脇檀は、「下屋を出して軒高と壁面をそろえる」角館の街並みの中で建築家としての「自己の表現」、‘変数’を投げかけたのである。今年2月、角館町中心市街地活性化センター「かつらぎ」としてリニューアルされて生き続けている。

 (参考文献 日経アーキテクチュア 2002.6.10)

  おかげ横丁(伊勢)

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