□  片原饅頭                            平成14年8月19日



 一方的な思い入れかも知れないが、県庁所在地にあった「片原饅頭」には伝統的な味と雰囲気が込められていた。県都前橋に出掛けた人から土産にもらった「片原饅頭」の味はなつかしい。どこの地方都市においても中心市街地の空洞化現象には空しいものがあるが、1996年3月19日、「片原饅頭」の閉店と共に、記憶の中で空洞化が一層拍車がかかった気がすると言っても云い過ぎでない。

 古色がかった水色の包装でつつまれた「片原饅頭」。酒種風味の皮とさっぱり味のこしあん。1つ1つへぎに包まれていたのが途中から薄いビニールで包まれていたが、その日の柔らかいうちに食べるのが最高。甘いものが身のまわりになかった所為もあるが、いくつ食べても食べられた。翌日こげ目をつけて食べると又別の味がして充分楽しめる。後継者難などで創業164年の歴史の幕を閉じた訳だが、県都の人達は勿論、かなり多くの人達にとって自信をもって推薦できる地元商品の代表が「片原饅頭」だった筈。

 品川の「戸越銀座」。近くに小さな営業拠点を持っているから余計に親近感がわくのだが、小さな商店が集まった界隈としての賑やかさは素晴らしい。線状に連なった大きな商店街としてのメリットがかなり活かされているが、一軒一軒は八百屋に始まって魚屋、肉屋、団子屋、惣菜、日用品、布団屋、家庭電化製品…と続く。夕方になるとかなりの買い物客で賑わう。インターネット上での商店街の紹介もかなり工夫されていて見ていて楽しい。小さな商店が売り方をそれぞれ工夫、商店にとって必要な3年に1度のリニューアルもがんばってきちんとこなし、売上げの低落を防いでいる。ボトムアップからたち上げる本来の商店街のあるべき姿がうかがえる。

 中心市街地の活性化は、トップダウン、異質なものを組み入れることによってつくり上げられると考えられ続けてきたのがバブル崩壊まで。大型店舗であったり、ブランド品などを扱うお洒落な店のつながりをイメージしつづけてきたのかも知れない。永い歴史の中で培われてきた小気味の良い商品が淘汰されるようになって、都市の特色、記憶が消えていく。最近は「和風」、「和」がブーム。「和菓子」も人気商品。「片原饅頭」がなくなって他の酒饅頭を食べてみても、あの味は別格。「片原饅頭」には県都の香りが込められていた小気味の良い商品、商店街の記憶の集積の核だったのである。

   

ご意見、ご感想は ndk-aoyagi@ndk-g.co.jp まで


「森の声」 CONTENTSに戻る