□  「マルサの女」                                 平成14年8月30日



 一向に出口の見えない景気回復。益々激しい経済状況は坂道をどんどん転がり落ちていく。株価も1万円台を割ってても、いつの間にかあまり大した話題にもならなくなってきた。戦後の右肩上がりの経済の中で、日本人は風呂敷を拡げすぎたと言ってしまえばそれまでだが、貯蓄にまわり一向に消費への意欲が沸かないのも不安感の裏返し。税収も下がる一方で諦めに似た雰囲気も漂っている。もともと日本人はお金を生涯に使い切ってしまうという大らかな消費意欲は持ち合わせていないのかも知れない。

 「ペイオフ制度」が解禁。貯蓄も、銀行を選び自己責任の投資としての傾向が強くなったが、貯蓄高は世界一。1200兆円もあると言われるが、海外旅行者の数も昨年の9月11日以来大きく落ち込んで、回復したと言っても元に戻っただけ。百貨店の各店の売り上げが微増したのも、経営破綻した別の百貨店の同質の顧客が移動しただけ。貯蓄は高齢者の貯蓄のウェートが高く、贈与税、相続税など税制改革の動きを加速して高齢者の貯蓄を消費にまわす動きも経済政策の1つとして機能する筈。

 ‘マルサの女’。台本が手元にないから記憶をたどると「権藤(山崎努)さん、我々庶民にはいつまで経ってもお金が貯まらないんだが、あんたどうやってお金を貯めるの?」(査察官・津川雅彦)。映画「マルサの女」最後の名台詞。「コップと水道の蛇口からほんの少しずつ滴り落ちてくる水滴。一滴、一滴をコップに受けて貯めるんですよ。じーっと、ずーっと貯まるのを待っている。なかなか貯まらない。ようやく半分に貯まった時普通の人は喉がカラカラになって我慢できずに飲んでしまう。それでもまだ我慢できる人はコップに一杯になるのをじーっと耐えて待つ。一杯になったからといって飲んでしまえば又なくなってしまう。私はあふれたコップの少しずつの水を皿に受けて、それで少しだけ喉をうるおすんです。」(山崎努)

 トンネルの中に入った経済不況。スパイラル状にマイナスに下降していく。高齢者の貯蓄も税制改革の動きがあっても、消費動向に影響しない。風呂敷をたたむのが今の構造改革。元々日本人は風呂敷を拡げすぎたのではなくて、「マルサの女」から抜けられないのが現実なのかも知れない。

 

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