□  打放しコンクリート                                平成14年10月9日



 自由な形態は、自由な発想からつくり出すことができる。自由な発想をささえるものとして素材に対する自立したとらえ方が求められる。線材としての木や鉄と違って、コンクリートは素材から形態を限定される事がなく、石、砂といった自然の素材でできている、裸形の表情をとらえる事ができる。

 1950〜60年代にかけて、身近な町村の役場から始まって県庁舎、農協庁舎など全国各地に庁舎建築が打放しコンクリートの素材でつくられた。この時期に建てられた打放しコンクリートの建物は、今の時代のベニヤ製の型枠と違って木目の入った本実(ほんざね)型枠が基本。コンクリートを木目の入った型枠に流し込むことによってコンクリートに型枠の木目が転写、プリントされる。市民の象徴である庁舎建築において、日本の伝統的な木造建築を西洋のコンクリート建築に置き換えることの意味があり、近代的なものに伝統的なものを付加する建築手法として全国各地にプロトタイプとなって建てられたのである。

 今の時代の打放しコンクリート。ベニヤ製の型枠でコンクリートを流し込むから、コンクリートの肌合いは均質。綺麗に型枠を止める穴を、どうレイアウトするかも施工図の段階で大変になる。コンクリートのむき出しの肌合いの表現は対比することによって緊張感をつくり出し、その上最近はお洒落感覚とまで充分結びつく。ブティック、レストランなどでは、写真に打放しコンクリートをプリントされた壁紙まで使われ、ちょっと見ただけでは、コンクリートを綺麗に流し込んだ壁と見間違ってしまう。

 空間を演出する表現としての自然素材であるコンクリート。鋳型にコンクリートを流し込み、自在にかたちがつくられるというコンクリートの可塑性。職人芸の延長として高い施工精度を要求された建築は、我々に緊張感を与える。緊張感は被覆をされない、やり直しがきかないことを前提にした技術に裏打ちされる。コンクリートは「野性の素材」である。
                                                         (青柳 剛)



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