□  「リュックサック」                                            平成14年12月4日



 台風、大雨、強風に立ち向かっていく元気を出しての移動には欠かせない。両方の肩に均等に負荷がかかって胸を引っ張られるように拡げるから、姿勢もきちんとなるし、呼吸も深くなる。背中に背負う感覚が良い。気分も前向きになるし、背負う感覚は腰、足、膝と一体となったときにバランスが取れてくる。両手はもちろん空くわけだから手の振りは自由に大きくなる、いきおい歩く早さも早くなる。夏に背中にたまる熱気のことを除けば「リュックサック」を持ちつけると手放せない。今年の6月からどこに行くにも「リュックサック」を持ち歩いている。

 それまでは手提げ鞄か、荷物が多いときには肩から下げるショルダーバッグ。長い間使っていたのだから皮の手提げ鞄もそれなりに愛着はある。手提げ鞄は書類だけをきちんと入れて歩くにはスマート、基本的には入れるものは書類と筆記具とそれに小物が中心。書類が増えれば鞄自体も大きめ、箱型のアタッシュケースにならざるを得ない。片手で持ち歩くわけだから重さにも限度は出てくるし、最近は腕にかかる負担が辛く思えてきた。腕が空かない。ショルダーバッグはその点かなり楽、少しぐらいの重さは肩が負担してくれるが、片寄った重さの持ちにくさの乱れたスタイルからは逃れられない。

 ハンドバッグ代わりの小さな三角形の‘プラダ’のバッグはお洒落だし、若い女性に人気がある。24時間都市の象徴、再開発ラッシュの東京駅周辺、‘丸ビル’がオープンして約3ヶ月。元々‘丸ビル’のターゲット層は丸の内で働くビジネスマンやОL、そして法人相手のビジネスがメイン。開業3日間で41万人の来場者をはじめ、41店舗も入居したレストランやショップは大賑わい。訪れる人は殆どが地方から来る人も含めて元気な中年女性の行列になっている。元気な女性だから決まって背中に「リュックサック」姿が主流。そういえば海外に行っても元気な中年女性の「リュックサック」姿に圧倒される光景は良く出くわす場面。今では若い女性となぜか飛ばして中年以上の女性にとって「リュックサック」は移動の必需品。元気さの証明に取って代わられている。

 7月の台風5号、6号のときも傘もさせない程の天候の中で一気に歩くのには最高だった。確かに背広姿に「リュックサック」は似合わない。それでもペットボトルから傘まで気軽に書類と一緒になって詰め込めるから手放せない。「リュックサック」の大きさに合わせて小さなノートパソコンまで買ってしまった。何にもなくなって本当にゼロからの出発が戦後、「リュックサック」を背負って子供の手を引く典型的な買出しスタイルの写真、「リュックサック」は生活の必需品だった。ないものをつくりあげる頑張り精神、それ以後の右肩上がりになる経済を支えたのも背負う感覚が原点。厳しい風が吹き荒れている。ため息ついてもしゃがんでいてもどうにもならない、「気」が抜けるだけ。背中に「リュックサック」を背負って風に向かって歩き出す、戦後のゼロからの出発の気分もこんなところから始まったのかも知れない。

                                          (青柳 剛)



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