□  常温のぬくもり                                             平成15年4月10日


 人とのふれあいは大事。自分が毎日ふれ合っている人はビジネスの延長が大半、極端に言えばビジネスの切れ目が縁の切れ目、ともすれば味気ない付き合いになってしまう。ビジネスの付き合いはとかく普段着の付き合いと違って背伸びしがち。そんな中でも仕事の中での付き合いでも心がなんとなく通じ合う仲間、ふれあいが出来てくるから面白い。ホットしたひと時、「常温のぬくもり」、慌しい年度末新潟に行ってきた。

 谷川連峰の下を突き抜ける長いトンネルを抜ければそこは3月半ばでもまだ川端康成の「雪国」の世界。しっかり裏日本にやってきた。地方の中小企業でも年度末は慌しい。工期末を迎えた現場が大半だしうまく終わるかどうか毎日が緊張の連続。新年度に向かって新しい工事の受注のことも頭の中をよぎって行く。おまけに今年は電子入札まで始まった。誰もが口にする言葉は「変化」、ほんとうにもたもたしてはいられない。暮れから正月にかけてメールのやり取りで決まった新潟行き。3人で日程のやり繰りしたんだから年度末忙しくて頭の中はそんな気分でなくても出かけるしかない。車で迎えに来てもらって谷川連峰越えたら年度末のためらっていた慌しい気分はようやく切り替わった。やはりそんなに遠くでなくても裏日本の風景は気持ちを切り替えるのには最高だ。

 夕食食べる仲間は土木系の大学教授と建設会社の技術部長経験者の東京支店長。白い1600ccの普通の車で迎えに来てくれたのは支店長。仕事の付き合いはそんなになくてもなぜか自分と話が合う。最新の技術情報をいろんなかたちで持ってきてくれるのもありがたい。工学博士を持った若い技術者まで紹介してくれる。すぐにビジネスには役に立たなくてもいつか自分の役に立ちそうな気がするし、話をしていて面白いし情報が多くなる分自分の考えをまとめるのに役に立つ。建築やら土木の話、果てはお互い大学時代の話にまで遡ってとどまる事なく支店長と2時間のドライブ。あっという間に新潟。

 夕食の会場は当たり前の普通の居酒屋。気取った料理屋なんかでないのがいい。約束の6時きっかりに到着したらもう大学教授の先生は席についていた。新潟の地元の人が段取りしたお店だからもちろん酒のつまみはうまい。旬の味ホタルイカから始まって一品一品注文する肴の味は格別。そんななかでも油揚げの厚揚げの味は絶品、思わずうまい!うまい!の連発。酒どころだから地酒は何でもあり。全国ブランドの「八海山」、「越の寒梅」なら普段無理すればどこでも飲める。地酒といってもここでしか飲めない新潟の地酒のほうがありがたい。新潟の酒の飲み方は熱燗でもなくもちろん冷酒でもない、無理をしない自然の温度、「常温」が美味いと先生と支店長が教えてくれた。なるほど「常温」で呑み較べ、新潟の始めて目にする銘柄の酒は本当に美味かった。

 居酒屋の後はそれでも簡単に「古町」辺りで割り勘の二次会。先生はベースのギターを離さない、支店長はピアノと間があけばフルート。賑やかなうるさいカラオケでないのがいい。お客が殆どいない。内輪だけの小さな生バンド。気が付けばもう9時を廻っている。帰る新幹線はもう無い。結局、支店長が段取りしてくれた駅そばのビジネスホテル。税込み5800円、「安すぎないかい」と思って泊まってみたらここもかなり工夫しているビジネスホテル。当たり前のことでも徹底的に省力化、無駄を省いて宿泊料金を下げている。冷蔵庫は無駄な電気を使わない移動式だし、いまどきテレビはコイン式。自販機の飲み物も120円。ISO(国際品質規格)まで取っている。それでも寝るだけだから清潔で低料金と気の利いた朝食は充分駅そばのホテル競争に打ち勝ちそう。余分なサービスを省いた当たり前の「常温」のビジネスホテルに徹しているから地元の支店長に人気がある。

 生活も人の付き合いも背伸びしていても始まらない。普段着のままがいい。背比べしてもただ疲れるだけ。それにしてもあの居酒屋の厚揚げは美味かった。ちょっとした焦げ目が付いた厚揚げが良い。何を挟んでも美味そうだ。慌しい年度末、無理して出かけたホッとした新潟での「常温」のささやかな宴会の3日後の夕方、家の廻りをジョギングして汗びっしょりになって帰ってきたら厚揚げの油揚げが届いていた。新潟名産「栃尾の油揚げ」。支店長が東京に帰る途中に届けてくれた気持ちがうれしい「栃尾の油揚げ」。支店長、先生ともビジネスを超えた永い付き合いになりそうな気がする。「追いかけられる年度末、追いかける年度末」。居酒屋でのなんにも変えがたいホッとした年度末のひととき「常温のぬくもり」は本物だった。

                                          (青柳 剛)


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