□ 長い文章                                                     平成15年6月4日


 いつの間にか文章が長くなってきた。ロットリングの太い万年筆で下書きをしていたのが最近は時間がないからどこでも場所を見つけて文章を書いている。パソコン直か打ちの状態が続いている。殆どパソコンキーボードを見ないでそれこそ薄暗い部屋でも打ち込むことが出来るようになってきた。考えている速度と同じくらいにパソコンを打つスピードが近づいてきたから文章が長くなってきたのである。去年の今頃では考えられないぐらいのスピードだ。キーボードの位置が変わらないのだから当たり前と言ってしまえばそれまでだが、この歳になっても慣れれば早くなるのである。機械に慣れた、同化している自分の姿に気づいている。

 入社したての女子職員は今ではパソコンは出来ても電卓で計算するスピードはそんなに速くない。それが半年もすると今までどの女子社員でも見違えるように早くなってくる。電卓の数字は殆ど見ることなく台帳だけを見ながら驚異的な速さで計算している姿に驚かされる。機械に慣れることは素晴らしいこと、それでも慣れてしまえば誰だって出来る。誰だって出来てしまう機械のことは思考することからますます遠ざかっていく。限りなく機械に同化出来れば感情までも消えていく。ただひたすら機械としての車の運転に熱中して同化できれば日常のストレスだって消えていく。頭の中の思考回路は確実に停止するし身体全部が機械そのもの、空白になるからすべてを忘れるひと時を過ごすことが出来る。

 身体も慣れから逃れることが出来ない。身体の筋肉を鍛えるにはもちろん筋トレは欠かせないから長い間続けてきた。シュワルツネッガーみたいな筋肉をつける気はなくてもそこそこの筋肉は維持したいし、少しは向上させたい。重いウエートをぎりぎりのところまでいつも挙げていくことによって筋肉の断裂を繰り返し成長していくのは確かに適切なひとつの方法。それでもいつも最大限の重量に向かう方法だけを繰り返していても身体はいつの間にか慣れが出て向上する反応速度が鈍くなる。2-3ヶ月間は軽い重量だけを繰り返すのも慣れを覚えた身体に新たな刺激を与えてくれる。そして又重い重量へと戻っていく。有酸素運動もエアロバイク、ウオ―カー、ステッパー、全速力で走り早足、いろんな組み合わせをすることによって体脂肪燃焼効果は増していく。ただ向上するのにも身体でさえ慣れてくる。

 パソコン文字打ちも慣れてきた。慣れたことによっていつの間にか違った感覚が芽生えてくる。文章は要点を短く書くのがいいなんて思っていた感覚もいつの間にか頭の中から消え去っている。年賀状も絶対手書きと分かっていてもパソコンソフトの「筆まめ」に気が向いていく。メールのやり取りに慣れ、きれいな字並びになるから郵便手紙も簡単にパソコンで打った文章で出そうかなんて気にさえなってくる。そんなことをしたらきっと返事の来ない手紙になることは間違いがないし、下手な字でも手書きで書いた手紙の返事は確実に戻ってくる。いつも簡単に慣れてしまうことから逃れなければならない。同じ人と会って、同じような仕事をし、いつも同じ狭い地域社会の中で生きている。繰り返される慣れの積み重ねから失っていくものは大きい。慣れから逃れる刺激はいつも求め続けなければならない。何もしない自分を見つめる時間も必要だし、別の世界の人との新鮮な出会いも大事だ。だから週に一度ぐらいは東京、勉強会に行きたくなる。「読み、書き、そろばん」が基本、機械は道具、そろそろ毛筆の字でも習い始めようか。

                                          (青柳 剛)

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