□ ビーチバレー                                                  平成15年6月27日


 1992年頃のバブル崩壊以来すべてに亘って経済は縮退を余儀なくされてきた。「失われた10年」と言われるように景気回復のために様々な政策がとられてきた。公共投資が景気の刺激剤、着火剤としての役割を果たす筈と公共投資予算が投入され続けてきたが今は公共投資と景気の連動を声高に叫ぶ人は殆ど居なくなってしまった。「失われた10年」の間もっと大事なことはこの10年の間に人の気持ち、特に30歳代前半ぐらいまでの若者の気持ちが大きく変わったことに目を向けなければならない。常にマイナスに作用してきた「失われた10年」の最大の弊害は「勝つことを体験できなかった20歳代、30歳代」、元気のない世代が出来上がったと言うことである。

 「失わなかった10年」を体験してきた企業集団がある。「脱藩ベンチャーの挑戦」(PHP研究所)著者、ザインエレクトロニクス(株)飯塚哲哉社長の話を聞いた。80年代後半は世界トップを誇った日本の半導体産業も90年代に入り凋落の一途を辿る中にあって98年から5年間で売り上げ40倍の業績を伸ばしている。従業員60名ぐらいの会社で売上高百数十億、経常利益二十億弱、ザインが創業した頃がちょうどバブルが崩壊した直後、「失われた10年」の間に事業を拡大していったのである。自らは工場を持たないファブレス、製造はファウンダリーである海外の企業に委託し常に競争の世界で変化に敏感に対応できる体制、製品の開発に特化した。ザインは日本で数少ないファブレスベンチャー企業の成功モデルのひとつである。

 ザインの大きな基本企業理念、今までのたて社会を象徴する「垂直統合」に対する「水平分業」は競争の理念をベースにしたダイナミズムな組織のあり方を問いかけてくる。いろんなスポーツがある中でもビーチバレーは過酷なスポーツ。チームワークがあるようでない、個のスポーツともいえる。9人制のバレーボールは9人それぞれの役割分担が明確に決まっている。自分の役割をきちんと果たすことによってチームプレーは成立する。ビーチバレーはたった2人のバレーボール、前衛も後衛もないコート全体を2人の選手が駆け巡る。おまけに足元は砂地の厳しい環境、今の時代の厳しい環境を象徴している。飯塚社長が目指す燃える少数精鋭集団が「水平分業」、ビーチバレーのごとく動き回れば利益は後から付いてくる。

 「脱藩ベンチャーの挑戦」は既成の枠組みの中で個が埋没していくことから脱却していくこと。「これからはパーパーソンの時代、1人当たりの売上高、1人当たりの利益で企業の競争力を測る時代が必ず来る」、「1人当たりの成果が企業評価の基準になれば、大企業もベンチャー企業も関係ない。より高い成果を出す少人数グループの方が良いに決まっている」。右肩上がりの状況を体験してきた世代は勝ち負けを経験してきた。「勝つことを体験できなかった20歳代、30歳代」、勝ちを知らない、本物の成功体験を知らない世代は成し遂げた感覚を知らない、最初からこんなもんだの感覚からいつも抜け切れない。「失われた10年」の間に「失わなかった10年」を体験してきた企業集団。常に勝ちを体験してきたんだから絶対に一番を目指していく元気がある。同じ能力があって同じ環境であれば後は元気かどうかで勝負は決まっていく。厳しい砂地の上で鍛えられたビーチバレーの選手の身体がすべてを語っている。(六本木ヒルズ49F,5月29日)

                                          (青柳 剛)

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