プラダとイデー                                                 平成15年8月11日


 「らしさ」からなかなか抜けられない。アプリオリ(先験的)な「建築らしさ」から抜けられない。柱、梁、床、天井、そして内外装、あとは考えられる材料の選択、いつも既成の引き出しから出発してしまう。デザインの要素もどこかで自分が原体験として体験したデザインか建築情報誌、過去の建築スタイルから切り張り、参照されたデザインの組み合わせに終始する。「らしさ」を疑ってかかること、計画された偶然性の中にこそ確かなものがある。秋型台風が日本列島縦断した蒸し暑い前日、何年かぶりに原宿表参道から国道246号交差点を突きぬけ根津美術館を右に曲がり骨董通りまで、気になっていた「プラダ」の建築と「イデーショップ」を体験してきた。

 今までに見たこともない建築の世界が突然現れた、「プラダブティック青山店」。それこそ全面、ガラスの結晶体の建築である。菱形のフレームに何百枚ものガラスをはめ込んで外皮が出来上がっている。ファサードとしてのガラスの菱形の外皮は建築全体の構造体も兼ねている。外部の苔のプラザの演出も面白い。異型の菱形ガラス建築全体が外に向かってショウルームの機能を投げかけてくる。内部、外部、屋根、素材といった既成の枠組みからは決して生み出されることのない建築、今までに見たことのなかったデザイン手法に驚かされる。「建築らしさ」からの脱却から生み出される形態、都市との関わり方である。

 「うるせー!」、イデーの経営者がよく口にする言葉はイデーそのものの理念かもしれない。既存のものに対して根本的に疑ってかかる異議申し立ての精神である。椅子?今までみんな座りやすい椅子ばかりデザインしてきたんじゃないか?座りにくい椅子があったっていいんじゃないか?都市?きれいなおしゃれなオフィスビルばかり考えてきたんじゃないか?ごった煮のごみごみした裏通りに都市の本当の姿があるんじゃないか?みんなスクラップしてきれいに建て替えるだけの手法で都市をつくってきたんじゃないだろうか?ボロビル買って壁に穴を開けてみれば面白い光が入ってくるんじゃないか?古いエレベーターでも可愛い色に塗り替えればお洒落になる。確かだと思っていたデザイン、ライフスタイルを疑ってみる、そんなところから「イデーショップ」は発信している。

 246号の交差点から根津美術館を折れ曲がって骨董通りまで、面白い現代建築が沢山建っている。レンガタイルの山下和正設計のフロムファーストが出来てからあっと言う間に有名建築が建ち並んだ。中庭をうまく取り込んだ現代計画設計のヨックモックビル、打ちっ放しコンクリートの曲面がきれいな安藤忠雄のコレッチオーネ、現代建築を見た後のんびり根津美術館の庭を歩いてみるのも楽しい。「プラダ」と「イデーショップ」、時代と共に培われてきた怪しげなデザインの「らしさ」を疑ってみることからスタートした。「らしさ」の延長線上からは生まれてこないデザインであり、ライフスタイルである。良いデザイン?悪いデザイン?確かなものはない。疑ってかかった計画性の中にこそ確かなものがある。

                                          (青柳 剛)

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