甘さ一掃 ロッカー室から                                           平成16年1月5日


 暮れの大掃除が終わって新年を迎えた。特別の仕事がない人以外、全員参加の大掃除が終わった。大掃除が終わると一年が無事終わったことに毎年安堵する。やはり1年間の大掃除は、やりがいがある。毎日の掃除と違って、型遅れになったカタログを始め、不要な書類もどんどん捨てていく、整理整頓。普段手の届かないところまでみんなで掃除をする訳だから綺麗になった社内は見違えるようになっていく。そして年末年始の休み中に独りで訪れる整然とした社内の緊張感には驚かされる。集団としての組織にとって、掃除の効用は数え上げればきりがない。掃除をし続けることによってもたらされるサクセスストーリーは「掃除をすることによって気持ちが変わっていく」と読み替えなければならない。

 「甘さ一掃 ロッカー室から」。先日の日本経済新聞夕刊(12月16日)の記事。2002年12月に横浜マリノスの監督就任、就任1年目で完全優勝を果たした岡田武史監督の組織のリーダーとしての哲学。勝利の神もまた細部に宿ると確信する。「勝負事は小さなことの積み重ね」。監督就任とともに最初に手をつけたのは用具が部屋に散乱していた選手のロッカー室の掃除。ロッカー室の乱れに、勝利への執着心に欠けるクラブの体質を重ね合わせた。掃除で強くなるわけではないが「自分のまわりのことが出来ないで、いい練習など出来ない」。念頭にあったのはニューヨークの地下鉄に氾濫する落書きの話、落書きをいたちごっこを繰り返しながらもひたすらめげずに消し続ける事によって、やがて誰も落書きをしなくなり同時に街の治安も回復したと言う。自分のまわりをきちんとする気持ちが大きな力となって流れを変え、チームを、組織を、街の人の気持ちまでひとつの事に向かって変えていく。

 既成の大組織と違って小さな組織から立ち上がり、常に現場を踏みながら外に向かってリスクをとってきた組織から学ぶものは多い。銀行とは違って消費者金融が培ってきたノウハウには別の重さがある。常にリスクと背中合わせ、いくら高い金利で貸し出したとしても回収できなければどうしようもない。銀行の顧客とは別の顧客。簡単には回収出来ない。上手に貸して上手に回収していくノウハウは厳しいリスクの中から蓄積されていく。先日話題になった大手消費者金融の創業期の貸し出しマニュアルのひとつ、給料日前の団地の奥様に貸し出す小口融資の基準は団地の部屋の中の掃除がちゃんと出来ているかどうかだったと言う。化粧品が散らばっていたり、服が脱ぎ捨てられていたり、流しが汚れていたり、そう、身の回りがきちんとできない人に貸し付けても身の回りのことに使ったお金は戻ってこないのである。

 新たな気持ちで新年がやってきた。綺麗になった社内で仕事に付くのは気持ちがいい。改めて掃除のことを考えるといろんなことを考えることができる。それでも勘違いしてならないのは掃除をし続けていればそれだけで必ず成功すると思い込んでしまうこと。掃除をし続けていれば成功するなら誰だって掃除道具を買いに行く。掃除は「目的」に向かっていくまでの「手段」であると言う当たり前の事。みんなで掃除をし続ける事によって気持ちが変わりひとつの事に向かっていく精神が培われていく。どんな小さなことにも手を抜かない集団が出来上がっていく。後はリーダーがきちんとした方向性を集団に投げかける事が出来るかどうかだ、流れに乗った組織は動き出していく。さあ、新しい年がやってきた。磨き上げられた社内とともに、「甘さ一掃 自分から」、自分も磨き上げていかなければならない。


                                          (青柳 剛)

ご意見、ご感想は ndk-aoyagi@ndk-g.co.jp まで


「森の声」 CONTENTSに戻る