3億と30億                                                   平成16年7月5日



 一昨年50億円以上が去年は40億円以上、今年は30億円以上、いやもっと下がるかも知れない。毎年のことながら、おそらくこれから上半期末に向かって「東洋経済」、「エコノミスト」など経済雑誌が衝撃的なタイトルで建設業特集を組んでいく。ゼネコン淘汰、ゼネコン合併再編・・・、いつまでたっても話題には事欠かないから特集記事を組む意味がある。建設関連企業50万社以上、建設業従事者約600万人もいるから衝撃的なタイトル記事の特集は発売と同時にあっという間に売れていく。編集部は、今頃いろんなデータを集めたシミュレーションの真最中、今年はどんな角度で切り込んでいくかきっと悩んでいる。全国の売上高50億円以上の企業のデータベース、昨年はそれより下がった40億円以上の建設会社のシミュレーションだった。今年はいくらの規模にまで落とすのだろうか、そのうちシミュレーションのボーダーラインも無くなりそうだ。

 30億円ぐらいの売上高、もう少し下がってもいいかも知れない。データを分析するにはいい規模だ。しかしながら地方の建設業で今の時代30億円の売上高を上げるには並大抵な努力では達成できない。もちろん平成10年位までなら何とかなっていたとしても今年あたりは公共事業中心で30億円の売り上げは無理な話。それでも30億円の規模の建設会社は雑誌の特集にも載ってくる規模だから、地方の都市では地域を代表する建設会社が名を連ねていく。この辺の規模の企業が一番厳しく厄介な規模なのかもしれない。技術者はそれなりに確保しておかなければならないし、きちんとした組織の形態をとらなければとんでもない事になる。工務の部長も必要、財務、経理、もちろん外向きの営業も必要になってくる。厚生福利まで計画だって考えなくてはならない。それでも一番問題なのはいつも全体が見えてこない事、人の動きは見えないし、利益が出ているのかマイナスになっているのかもすぐには分からない。全体が見えてこない規模が建設業にとって30億円の売上高の規模であると言うことである。

 3億円ぐらいの規模なら小回りは聞くし、いつも全体が見えている。もちろん全体も見えるし、部分も見える。働いている従業員のその日の顔つきだってみんなで共有できる。お互い顔を合わせない日もある従業員同士なんて事はありえない。わざわざ厚生福利だなんて身構えなくても「飯を食いに行こう」って言えばすぐに意気投合する。レクリエーションでどこかに行くと決めれば誰かのワゴン車がすぐにでも準備できる。わざわざキャッシュフローがどうなっているかデータを見るまでもない、その日のキャシュの出入りは手に取るように分かる。こんな毎日の繰り返しだから会社全体の動きはいつもガラス張りで見えてくる。働きそうもない、成果を挙げそうにない社員のインセンティブも明確に評価できる。クレームだってみんなですぐに対応できる。前に進むのも後ろに少し後退して控えめにしておくのも簡単、景気の順風、逆風も素直に受け止める事が出来る煩わしくない規模が建設業にとって3億円ぐらいの売上高の規模であると言うことである。

 厳しい逆風の中だからおそらく今年の雑誌の特集のタイトルはますます過激なものになっていくだろうし、売上高に伴う有利子負債月間月商倍率などシュミレーションデータのボーダーラインはますます下がっていく。特に地方の公共工事主体の建設会社の落ち込み量は見なくても想像できる。何年か前は確かに企業のステータスは規模だった。売上高はもちろん資本金、従業員の数の規模で争っていたし、そしてそれなりの社会的な評価も規模から得ていた。今は違う。規模を誇る背比べに時代は終わった。地方を代表する建設会社の規模は30億円あたりの売上高の規模と言っていたのは今後成り立ちそうもない過去の話。もともと一品一品自己完結するつくり方が建設生産システム、量の拡大には向いていない。規模を誇る考えを脇に押しやって考えてみればいい。答えは見えてくる。小さくまとめる事、売上高3億円企業が10も集まれば30億円になる。カンパニー制、持ち株会社、グループ化、協業化、足しても自由減らしても自由、柔軟なフレキシビリティーに富んだ企業集団の形がすぐ目の前に見えている。

                                          (青柳 剛)

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