見下ろす風景                                                平成16年10月12日



 風景が変わった。想像できていなかった変化としてこの数年で都市の風景が確実に変わってきた。巨大な超高層ビルが群れになって立ち上がってきたという変化のコメントはどこでも聞くことが出来る。汐留から品川一帯まで壁のように立ち上がった超高層ビルは帯のようになって連なっている。もちろん超高層の始まりだった新宿、そして渋谷、池袋と点的な超高層群もいつの間にか塊が大きくなって増えだしている。こういった超高層を「見上げる風景」のかたちの変化は昭和43年「霞ヶ関ビル」が出来たときから充分想像が出来ていた、超高層から「見下ろす風景」の変化は想像出来なかったと言う事である。誰も「見上げる」、「見比べる」事は考えていたとしても「見下ろす」事は考えていなかったのである。

 忙しければ隔週、そうでなければ毎週、夕方から出かけているのが東京「六本木ヒルズ」。到着して煙草一本とカロリーオフのコカコーラで休憩するのが夕闇に包まれだした49階の狭い喫煙室。東京湾が汐留の超高層ビル群の向こうに霞んで見えるし、遠く多摩のほうまで都市は途切れることなく続く。こうして都市が縦にも横にも増殖していく風景は理解の出来る範囲だった。ところが49階の「六本木ヒルズ」の喫煙室から見下ろす風景の変化までは予測していなかった。「六本木ヒルズ」から見下ろされるビルの屋上のデザインが変わった。もちろん緑で覆われた綺麗な屋上もあれば緑はなくても屋上のペントハウスは綺麗にデザインされているし、冷却器をはじめとした設備機器類の配置、デザインは「見下ろす」眼にしっかり応えている。

 高層建築のデザインの邪魔になるのが仕方なく出てくる屋上のペントハウスと設備機器。いくらエレベーションを綺麗に整えても屋上に小さな帽子が載ったようなエレベーターの機械室を兼ねたペントハウスはいただけない。もちろん設備機器も邪魔になる。整えられたエレベーションに対していきなり建築内部の機能がむき出しになるからおかしなかたちになる。そんな中、屋上階の壁を一層分立ち上げてペントハウスと設備機器を綺麗に隠してエレベーションを整えた始まりが五反田の「ポーラビル」だった。このデザイン手法はその後のフラットな屋根の高層建築デザインでどこでも見受けられるようになった、スカイラインが綺麗に整った箱型建築のプロトタイプとして。もう少し踏み込んで今になって考えてみると、それは「見上げる」かたちの整え方の一手法として広まったのである。

 風景が変わった。想像できていなかった変化としてこの数年で都市の風景が確実に変わった。誰も建築の屋上をずーっと見られている事になるとは思っていなかった。「見上げる」、「見比べる」事だけを考えていた。建築のエレベーションは、正面のエレベーション、ファサードだけを考えるだけで良かったし、側面の2面とあと裏側の背面を考えればもう充分だった。建築の4周だけを考えていれば良かった。今は違う。上からも見下ろされている。屋上階をきちんとデザインする事まで求められている。「六本木ヒルズ」から見下ろされる風景が変わった。デザインは、見られる事によってつくられる。そういえば都会の人達のファッションが垢抜けているのも、そしてスタイルまで良く見えるのもこんなところから来ているのかも知れない。見られていれば考える。

                                          (青柳 剛)

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