やき直し文化                                                 平成17年1月31日


人間の生き方、振舞い方そのものが文化である。大袈裟に音楽、建築、文学などと身構えなくても日常生活をありのままになぞってみることが文化を考える事になる。研修、その後の宴会と何日か続いた。夜道にフロントのごつい「サーフ」を運転しながら一人で聞く音楽は楽しい。懐かしいCDを買った。去年発売になった「荒井由美作品集」、注文しておいたのがコンビニからやっと届いた。この頃の荒井由美の曲が良い。荒井由美が作詩作曲を手がけた提供曲20曲が収録されている。よく聴いていた石川セリが歌っている曲が2曲入っているし、三木聖子の「まちぶせ」が荒井由美の作詩作曲だなんてことは知らなかった。「ひこうき雲」は雪村いづみが歌っている。荒井由美、その後松任谷由美になってからの曲すべてを考えてもこの頃の曲「ひこうき雲」、「ベルベット・イースター」などが今でも一番だと思っている。車のなかの一時間弱、騒々しかった宴会での高まった気持ちは静まってくる。

 一昨年の暮れから正月にかけてのテレビ番組のお陰でスマップの「世界に一つだけの花」が去年流行ったといっても最近は取り立てて一年の間にどの曲が流行ったかという感覚があまりない。今年の暮れは訳の分からないカラオケソング「マツケンサンバ」だったし、NHKの恒例の年末番組で印象に残っているのは前川清の「そして神戸」。相変わらずその年を代表するような曲が出てこない。かなりの量の曲が毎年発表されるから際立った曲が出にくくなった状況と言ってしまえばそれまでかも知れない。一時代前なら、リバイバルソング、やき直しとしての曲がそれなりのポジションを占めてきたのも最近の傾向、詩は変わっても鬼束ちひろの「いい日旅立ち、西へ」を始めとして島谷ひとみの「元気をだして」とか「亜麻色の髪の乙女」、EXILEの「Choo Choo TRAIN」などがそれなりに売れていく。ビートたけしの「目ん玉ひん剥いたって見えねえものは見えねえんだ!」と最後の決め台詞の映画、最強の男「座頭市」もタップダンスなどを織り込んでアレンジしていてももちろん勝新太郎のやき直し、去年のNHK大河ドラマの「武蔵」でさえ他の黒澤映画との相関が取沙汰されている。最近は「新撰組」もそうだったと、どこかの週刊誌にも出ていた。やき直しで充分、今あるものをあるものとして了解できる感覚にみんながなってきた。

 建築デザインの潮流も確実に変わった。一言で言えばもののつくり方が「構築的なつくり方」から「非構築的なつくり方」へと変わったと言うことである。「非構築的なつくり方」は一時代前の巨匠としての建築家が誕生してきた流れから外れていく。気軽に海外情報を手に入れる事が出来、幅広く建築デザイン情報も誰もが共有できるようになった状況も巨匠が生まれにくい状況になってきた。「構築的なつくり方」はまとめあげるつくり方としての物語性が求められ、デザインのストーリーを組み立て素材の持つ効果を引き出していく。木は木、鉄は鉄、石は石としての表情を素直に表現する。それに反して「非構築的なつくり方」は、背景として技術力の向上と言う側面に支えられながら素材を既にあるものとして捉えレトリックな表現へと向かっていく。例えば、構築的な石を積み重ねる表現は重さを素直に表現するが石を吊る事によってもたらされる重さの表現は別の表現になる。「非構築的なつくり方」は、発見性、仮設性、祝祭性を持った多様なつくり方を可能にしていく。

 荒井由美の「ひこうき雲」、「ベルベット・イースター」が高い評価を得たのは、突き抜けていくような透明感のある声の質だったかも知れない、それ以上に曲そのものが「非構築的」なつくられ方をしたから人気が出た。「構築的」な物語性がなかったから聞き手はいろんな聴き方、読み取り方が可能になった。「構築的」な物語性を超えたものを読み取る事が出来る。映画「踊る大捜査線」もいつもノンキャリとキャリアとの確執、テレビ「砂の器」も「白い巨塔」も「黒革の手帖」も答えは見えているやき直し。今あるものをあるものとして了解できる感覚にみんながなってきた。了解できる感覚の中で日常生活をなぞっていく。了解できるスタイルの中からレトリックが生まれてくる。だから、もうどのジャンルでも国民みんなが了解できるスーパースターは生まれてこない。やき直し文化最盛期。様式主義を出来上がったスタイルとして認識したのがマニエリスム、もう一度この辺に視座を置きなおしてみる必要はありそうだ。人間の生き方、振舞い方そのものが文化である。

                                          (青柳 剛)

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