百匹目の猿                                                 平成18年11月6日


気になるのはいつも隣の人、会社組織の中なら隣のデスクに座っている人、行政なら組織のヒエラルキーが明確になっているからこの傾向はもっと強くなる。係長は課長の動向を、課長は部長の顔色を窺い、ましてや同期の仲間の去就は毎日気になる。少しでも給料の差が出れば、「なんであいつが」の思いが漂いだす。気になるのは廻りの事だらけ、内にだけ眼が向いていく。隣の人の何万円かの給料の差は気になっても、遠くで年収何千万円もとっている人のことはまったくといって良いほど気にならない。人間関係が濃密に成ればなるほどこの傾向は強くなる。隣に蔵が建てば腹が立つとはよく言ったもの、濃密な地域社会、渦巻きだすのは嫉妬と足の引っ張り合い、前向きの考えなんかはすぐに潰されてしまう。地方を「変える」、地方から「発信する」、地方から「知が生まれる」・・・難しそうだがチャレンジしてみる意味はありそうだ。

 内に眼が行きそうなのが同じことを考えている人の集まり、同じことを考えている人だけの集まりでは、結果は見えている。異業種の人の集まりは、違った考えが刺激になる。次のステップへの思考に役に立つ。それでも、同じ地域の中にいる人だけでは新鮮味に欠けるし、いつの間にか澱が溜まりだす。そんなこともあれこれ考えて、仲間と小さな勉強会を立ち上げだした。この幾日間は、立ち上げに費やしている時間が多い。どういった仕掛けが出来るかどうかが問題だし、仕掛けだしたら簡単に止めるわけにはいかない。仲間も仕事をしながらの会の運営だし、過度の負担になってもうまくいかない。それでも、プログラムを考えているだけで楽しくなってくる。後は、会のあり方を議論しなければならない。悩みながら細かく決めていても前に進まない、決めた通りにはおそらく動かない。とりあえず、問題意識を持って発信し続ける若手の話を聞くことから始めれば、会のあり方は後から付いてくる。

 「霞ヶ関構造改革 プロジェクトK」、9月に読んだ本の中の一冊だった。人前で話をする事情もあって、その頃は、組織についていろいろ考えている時期だった。組織は出来るだけ水平がいい、一人一人が起業家精神を持って動けば、組織は活性化する。縦割り組織は硬直化する、よく言う大企業病が蔓延する。そんなことを考えているときに読んだから新鮮だった。公務員の中にはびこる所管業界・省益至上主義から本来あるべき姿、「国民全体のため」という視点への脱却だ。「国民全体のため」という視点は民間企業に置き換えれば「顧客のため」になるし、やるきがでる組織を目指して経営者はいつも悩んでいる。30代前半の21名の若手霞ヶ関官僚が、この視点で議論した成果をまとめたのが「霞ヶ関構造改革 プロジェクトK」、第一回目のセミナーはこの人達にお願いすることにした。議論を重ねた実績を講演するからきっと中身は濃いし、若さは聴いている参加者たちに刺激になる。

 人を猿に例えるのは不遜なことかも知れないが、ライアル・ワトソンの「生命潮流」に出てくる「百匹目の猿」現象から教わるものは大きい。「一匹目の猿」が川でサトイモを洗って食べれば、隣の猿も真似をしながら洗って食べるようになる。そのまた隣の猿も同じ真似をする。洗ったほうが美味しいから真似をする。それが「百匹目の猿」まで洗うようになると、いつの間にか遠く山の向こうにいる猿までサトイモを洗って食べ始めるようになる。「百匹目の猿」、地方の小さな勉強会、きっとそのうち「一匹目の猿」となって生まれてくる。前向きの考えを真似しながら受け入れる。そんなことを考えながら始める勉強会、結果はすぐには出る筈もないし、時間はかかる。後は、自分にない刺激をみんなで追い続けられるかどうかにかかっている。地方を「変える」、地方から「発信する」、地方から「知が生まれる」、・・・・・気になる人は、決して隣の人ではない。

                                          (青柳 剛)

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