「チ○、ハ○、デ○」                                            平成18年11月20日


 いつまで経ってもスタイルが変わらないし、最近の砂漠をバックにしたマンスリーマンションのコマーシャルも格好いいなあと感心して見ていたら、藤原紀香が結婚するという芸能ニュースが流れていた。相手はお笑い芸人、身長168cmの陣内智則だという。二人とも兵庫県出身という共通点があったとしても、またかと思った人は多い。お笑い芸人と美女カップルの組み合わせが多い。テレビ東京の「たけしの誰でもピカソ」の知性派女優渡辺満理奈は、見ようによってはイ・ビョンホンに見えなくはないが「ネプチューン」の名倉と結婚したし、安達祐実は人気お笑いコンビ「スピードワゴン」の「あま〜い」の井戸田潤と電撃結婚した。結局は結婚までには至らなかったが「キャイ〜ン」の小太り三枚目男の天野ひろゆきと大坪千夏の交際はフライデーにも良く載っていた。外見だけを見ていると「なんであのカップル?」との思いはいつも拭えない。それでも最近は、みんなが納得する組み合わせになってきた。

 今年、夫婦で直木賞作家になった角田光代が、「愛してるなんていうわけないだろ」(中公文庫)の「贈り物」で書いていたタクシーの運転手とのやりとり、・・・『お嬢さん、いいですか?結婚相手を選ぶ条件は、一つです。――優しいこと、それだけですよ』なんだかいろんな気持ちがあふれちゃって、私また泣きそうになっちゃってさ、だけどやっぱりこらえてたの。運ちゃんはうれしそうに、『優しい男を見抜く方法が一つだけあるんです。私も伊達に商売してるわけじゃありません。知りたいでしょう』そんなこと言うのよ。そりゃ知りたいわよ、私、身を乗り出してなんですかって訊いたの。そしたらね、運ちゃん、まじめな顔して、『チビ、ハゲ、デブです』だって。えっ?て聞き返したら、ミラーの中の目がものすごくうれしそうに笑って、『チビ、ハゲ、デブ。この条件を一つでも満たしていれば、そいつは優しいやつですよ。お嬢さんに捨てられたら、もう相手がいないって必死ですからね』そんなこと言うのよ。そんで大声で笑うの。気がついたら、私も一緒に大声で笑ってたんだ。何だか気持ちがずんと、軽くなったっていうか、あったかくなったていうかね、あんな奴、私は大嫌いなんだし、それでいいじゃないってふっと思えたの・・・。

 男と女の芸能ネタだけ書いていると時間の無駄のような気がする。読んでいる人は、もっとそんな気になる。他人の、しかも、テレビの中の男と女の噂話だけで終わってしまう、ってなことを考えて無理やりビジネスの話に結びつける。ビジネスの世界の営業も結婚と同じという話である。良い営業成績を上げてくる担当者は格好いいだけでは決まらない。人と話をするとその2−3日後に必ずといって良いほど手紙が届く経営者(営業担当者)がいる。御礼の手紙だ。それも直筆の手紙が届く。メールだ、携帯電話だの時代に短い文章でも直筆の手紙が届くと感激する。受け取った人のことを考えた時間の重さが伝わってくる。こういったやり取りの中でお互いの距離がいい距離でつながりだす。決まって、こういった経営者がいる会社は元気がいい。相手のことを考えた、相手のことに時間を割いた分が受け取った側にとっては優しさ、信頼関係となってくる。顧客にとってはいつも一番の商品を買うんだから信頼感がなければ売れるわけがない。営業も結婚と同じ、かっこいいだけ、いきなりプロポーズでは誰も受けない。

 藤原紀香も、渡辺満里奈も、安達祐実も、まわりに今まで言い寄ってくる格好良い男が沢山いたことが想像できるから「え〜っ?」の気持ちがわいてくる。今ではもう死語になっている、背が高くて、収入も高くて、学歴も高い「三高」の男は沢山いた。数ある選択肢の中からお笑いタレントと一緒になるのは、角田光代の「優しさ」しかない。角田光代の「愛してるなんていうわけないだろ」の一節の前段は、格好いい男とクリスマスにワインを飲みながらディナーを食べた後、その男の身勝手さの幻滅に打ちのめされているときに慰めてくれたタクシーの運ちゃんの話なのである。格好良いかどうか外見は別、コツコツと地道な営業マンこそ確実に成績を挙げてくる。「チ○、ハ○、デ○」、別に芸能界に限った話だけではない。身近に見渡しても、「え〜っ?」と思うようなカップルはいる。きっと、他人には分からない良さがある。そして、自分のことと言えば、他人も羨む髪をしているが、陣内の168cmにも満たない167cmのチ○だし、ダイエットしようと思ってもなかなか成果が出てこないデ○である。「チ○、ハ○、デ○」、2つも当てはまっている。


                                          (青柳 剛)

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