スターはいらない、雑草に花が咲く                                     平成19年2月6日


 スポーツは技のぶつかり合い、そのうえ、技だけでなくいかに気力が勝って持続し続けられるかにかかっているから面白い。先月の27日のテニス、マリア・シャラポアがノーシードのセリーナ・ウイリアムズに6−1,6−2で豪快に負けたのものセリーナ・ウイリアムズのほうが気力で勝っていた結果に他ならない。正月の箱根駅伝の往路の山登りの区間こそ気力、順天堂大の今井正人の走りは故障を恐れず積極果敢に「前に!前に!」の気力で平地の1万mでは到底考えられないようなタイム差で他校を圧勝した。個人のスポーツも技に加えてそれ以上に求められるのが気力、組織力で動くスポーツこそ積み上げられた気力の差が技の差を押しつぶしてしまう。今年の早稲田ラグビー、関東学院大との大学選手権・決勝戦がそれを言い当てている。

 1月13日(土)に東京・国立競技場に行ってきた。数年ぶりのラグビー観戦だ。昨シーズンは早稲田大清宮ラグビーの総決算、怒涛のごとく早稲田大の快進撃だった。快進撃をテレビでしか見ることが出来なかった。今年こそは眼の前で早稲田大の優勝シーンを見たかったのである。去年の優勝経験がある選手が9人もいる。負けるはずがないと思って出かけた国立競技場、試合開始後9分、大した時間も経たないうちにあっという間に先制トライは関東学院大、ゴールキックまで決められた。早稲田大陣営ばかりに攻められる。前半、気づいてみればいつの間にか21−0、それでも早稲田大の応援席は負けるはずがないとの雰囲気が漂っている。隣の席の後輩はまだまだ大丈夫なんてのんきに構えている。マイボールラインアウトは殆ど決まらない。連続してボールを支配できないから攻撃とならない。ずるずる行って結局前半は早稲田大が2トライを返すも及ばない。後半こそはと思っても前半の流れは急には変わる筈もない。最後に早稲田大のバックスのスピードを生かした4トライを奪っても所詮個人プレー、33対26で早稲田大は負けてしまった。

 「スターはいらない、雑草に花が咲いた」、試合後関東学院大の春口監督の優勝インタビュー、国立競技場に響き渡る開口一番の声だった。雑草を関東学院大の選手にたとえている。早稲田大に対し徹底的に攻めの戦略をとってきたのである。選手個人の技術力を取ってみれば早稲田大の方がもちろん上、スターばかりいる。バックスには日本代表選手もいる。ラインアウト対策に196cmと194cmの長身の選手を前面に押し立てた関東学院大の戦略は効果を発揮した。敵陣にキックをしてラインアウトで繋げるというそれまでの早稲田大の戦略は見事に打ち砕かれた。攻撃が繋がらなくなってしまえば個人の技がいかに優れていても発揮しようがない。組織は成り立たない。前評判は早稲田大、攻略を考えながら戦略を練りに練った関東学院大の攻めの気持ち、気力がひとつになって、いつの間にか守りの気持ちになっていた早稲田大から勝利が逃げていったのである。

 スポーツは技のぶつかり合い、そのうえ、技だけでなくいかに気力が勝って持続し続けられるかにかかっている。セリーナ・ウイリアムズのインタビュー記事も「テニスの80パーセントは精神力」と勝利への執着心をコメントしているし、鉢巻をしながらいつも応援席で「気合だ!、気合だ!」と大きな声を出しているのは女子レスリングのアニマル浜口、もう最近は流行らなくなったが昔のスポコン・バレーTV番組、みんな気力の大事さを問いかけている。組織といえば企業も組織そのもの、リーダーが組織に課題を与え、勝つ組織としての気力をどう維持できるかどうかにかかっている。誰かが気を抜けばあっという間に崩れていく。来シーズンの早稲田大ラグビー、主力選手の技が抜けていく、眼を向けるのは気力、面白くなりそうだ。「スターはいらない、雑草に花が咲く」


                                          (青柳 剛)

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