□ 「300」と「ダイ・ハード4.0」                                         平成19年8月20日


 開放的な夏の暑さの中で、夏休みに読まれる本のトップに毎年夏目漱石の「こころ」が選ばれるという。そういえば「こころ」は、夏にいつも読んでいた。湘南の海水浴場に出かけるシーンもあるが、禁欲的な心の葛藤を描いた叙述が、開放的な夏の気分の中で逆に本棚に手が伸びさせる。今月に復刻版で発行された柴田翔の「贈る言葉」も読者のこんな気持ちを狙いながら発行されている。「いかに生きるべきか・・・・・、この単純な問いかけに対する答えにならない答えが柴田翔の作品の中にはありました」とは直木賞作家小池真理子の推薦文、暑い中、蝉の鳴き声でも聞きながら、「ひたむき」に生真面目に生きていた時代を懐かしみじっくり読み耽るにはちょうど良い本の中身かもしれない。

 大人のスポコン映画、「ボクシングよりは今生きている人生のパンチのほうがよっぽどきつい!」と改めて感じるだろうと思っていた映画、「ロッキー・ザ・ファイナル」を観てみようと思っていたら見逃した。東京に出かけたら、もう、どこの映画館も上映していなかった。仕方なく考え直して観たのが、「300(スリーハンドレッド)」、話の展開は単純明快、300人の屈強な兵士の軍団で100万人を相手に戦うストーリーである。ただそれだけである。精神も肉体も徹底的に鍛え上げ、向かってくる100万人の波状攻撃に立ち向かう。音響も効果的だし、戦闘シーンの迫力も凄い。何度攻撃されても守り抜く。敵の矢はそれこそ雷雨のごとく降ってくる。楯を防御にみんなで亀のようになって防ぐ。戦車代わりの大きなサイまで登場してくる。そして、傷ついても、傷ついても、まだ戦い抜く・・・、観客のどこかに眠っていた攻撃的な魂が呼び覚まされる映画である。

 今度は見逃すまいと期待していたブルース・ウイリスの「ダイ・ハード4.0」をその翌月に観た。この映画も観ていてスカッとする。痛快アクション映画とは「ダイ・ハード」のことを言う。10年ぶりの「ダイ・ハード4.0」だがそのアクションぶりはCGの技術で、より効果的になっている。ストーリーはどうでもいいが、世界中を震撼させるサイバーテロにブルース・ウイリス演じるはみ出しアナログ・マクレーン刑事が立ち向かっていくストーリーである。車で空を飛んでいるヘリコプターを墜落させたり、傷つきながら大型トレーラーに乗り移り最後は巨大な炎となって燃え尽きる・・・、素直にメチャクチャなアクションだけを楽しめる。見終わってみれば、いつの間にか僧帽筋に力を入れながら有楽町マリオンのエスカレーターを降りている自分に気づいている。

 最近観る映画は、打ちのめされても、打ちのめされても、敢然と戦っていく攻撃的な映画ばかりだ。観ていて気持ちがいい。映画を観ているその場限りの感動でしかないが、観たい気持ちが向いていく。いいストーリー仕立てであっても、観たあとに「ず〜ん」と尾を引きそうな映画にはなかなか気が向かない。昔は違っていた。重たい映画しか観なかった。重さにしっかりと耐えていた。きっと今の生活が尾を引きそうな、マイナスになりそうなことばかりに向かいそうだから逆な気持ちが作用する。夏目漱石の「こころ」もそう、人生で2度読む本・柴田翔の「贈る言葉」もそう、なんでもありの開放的な暑い夏だからこそ、改めてじっくり「ひたむき」な人生をもう一度静かに考えてみようという気持ちが毎年夏の本屋に平積みにされている本に手を伸ばさせる。今年はあと一回、秋が過ぎ寒くなりそうな厳しい冬の前、年末にマッスル・ミュージカルでも見ようかと思っている。


                                          (青柳 剛)

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