□ どんだけ倒れる、箱根駅伝                                                              平成20年2月12日


 「どんだけ倒れる、箱根駅伝」、週刊文春・堀井憲一郎の「ホリイのズンズン調査」のタイトルである。「それでどうなの?」と思う程度の毎回あまり意味がある調査ではないけれど、「ふ〜ん」となぜか感心しながら毎週読んでいる1ページである。箱根大学駅伝、今年もテレビの視聴率が28パーセントにもなったスポーツイベントだから、日本中の人が正月の2日、3日に観る定番番組に定着してきた。確かに年末に収録済みのバラエティー番組を観ているよりもハラハラして面白い。さすがに昭和の時代にどのチャンネルを廻しても似たような「新春かくし芸大会」系番組の人気はもうなくなってしまった。駅伝だから駄目になっても復活して順番も入れ替わるし、1日目の箱根の急坂の過酷な走りはそれこそ見ごたえがある。そして2日目、繰り上げスタートのチームが出てくるあたりからドラマが生まれてくる。正月早々、必死になって大学生が走る姿が面白いから、いつの間にか画面にみんな釘付けになってしまうのである。

 今年の箱根駅伝、早稲田大が思っていたより健闘、往路が1位、総合で2位だった。予想は8位近辺だった。「ホリイのズンズン調査」は、例によって面白い視点からの分析をしている。タスキを渡した後(ゴールした後)ランナーは倒れたか、立っていられたか、大学別にチェックして表にしている。縦の軸が大学別、横軸の分析因子として「倒」は倒れこんだ選手、「支」は支えられないと倒れそうだった選手、「苦」は膝をついたりしていたがスタッフに抱えられて何とか移動していた選手、後は「余裕」と「元気」に分けられている。一校10人の選手で20チーム、総勢200人の中で「倒」が20人、「支」が13人、「苦」が11人、2割強の選手が限界を超えた走りをしたという分析結果になっている。残り156人の選手が概ね快調に走っている。そして、当たり前のことだが抜かれた選手に「倒」が多い、例えば早稲田大の選手は9人が「余裕」、駒沢大に抜かれた9区の選手だけが能力以上の走りをして「倒」で倒れこんでいる。

 3人の選手が途中棄権したことが今年は特徴的だった、3人も走れなくなる年は珍しい。1人は蒲田の京浜急行の線路に足を取られて棄権、残りの2人は脱水だった。その後今年の駅伝を振り返って、スポーツ関係者がいろいろな角度からコメントしていた。大学駅伝で認められているのが水分補給のみだということも始めて知らされた人は多い。加えて、選手のスピードが年々アップしていることもその一因だという。毎年区間新が更新されている。あれだけのスピードになって、水分補給だけでは脱水症状になる選手が出てくるのは仕方がない、この辺を改善する必要があるのではないかとのコメントも良く分かる。低血糖になって、それこそフラフラの極限状態に選手は陥ってしまう。そんな中でも、どこの大学の監督だか忘れてしまったが、あの監督のコメントは正しい。各大学のОB会が良くないと言う、後輩選手に「今年こそは優勝しろよ!」とのプレッシャーが重く圧し掛かってしまい、自分の能力以上の走りをしてしまうから結果としてシード権獲得どころか元も子もない途中棄権になってしまうのである。

 目標は少しだけ上がいい、頑張り過ぎは駄目だということだ。考えてみれば駅伝でなくともすべての分野に当てはまる。自分の背丈以上に頑張って良い成果が出るわけがない。チームの実力をしっかり把握しながら、それよりも少し上の順位を目標にしながら走り、走らせるのがチームのリーダーの役目であり、それこそ正しい意味のリーダーシップである。企業の目標も手に届きそうな目標を常に設定し続けなければならない、売り上げ倍増なんてあり得ない。それにしても、正月のお屠蘇を飲んでほろ酔い気分で毎年観る箱根大学駅伝、大学生が必死で自分の能力を超えた走りをすることによって生まれてくるドラマというかもっと言えば残酷な悲劇、このあたりがなんとも言えずに観る人を感動させる。観客はこういったハプニングが起きそうな劇的なシーンを期待するから画面に釘付けになるのである。「どんだけ倒れる、箱根駅伝」、また来年もどんだけドラマを見ることが出来るんだろうか?悲劇を期待する気持ちが高まると共に視聴率は毎年上がっていく。

                                          (青柳 剛)

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