□ ダンス系と言葉系                                                                   平成20年12月20日


 年末恒例の今年の締めくくりの報道で溢れている。重大ニュースを始めとして、政治、経済、スポーツ、ありとあらゆる分野の締めくくりだ。流行語大賞も決まったし、京都の清水寺のこの1年を表現する1字も「変」に決定した。そんな中で、音楽、今年売れた曲について考えてみたいと思っている。最近の傾向だが、特別にこれはという売れた曲はなかったが、ジワジワと流れが変わりだした。流行歌という言葉もあったように、音楽は世相を表すと言われるが、まさにその通り、しみじみ歌い聞かせる曲が流行りだしたのである。飽きが来ることもあるが、何年かおきにこういった揺れ戻しの傾向はある。この1年を振り返るのに、流行った曲を考えながら、あれこれ思い出せば時代の流れが見えてくる。

 今年は、何といっても紅白歌合戦に涙の初出場を果たした黒人演歌歌手ジェロの人気が高かった。日本人でなくても演歌を歌えることとの違和感もいいが、あれほど伸びのある声で上手に歌えると安心して聞いていられる。そして、「団塊世代の星」と言われ、紅白最高齢で初出場の秋元順子は、有線放送から人気が出てきた。今月に入って「愛のままで・・・」は演歌部門で1位、年末に一気にブレイクしそうな勢いだ。元々実力のあったソバージュヘアの青山テルマも脚光を浴びだした1年だった。その他に思いつくのは朝のNHKの連続テレビ小説「だんだん」の主題歌、竹内まりやの「縁の糸」はいい曲だが、週に5日も流れるわけだから、一層心に強く刻まれる。竹内まりやの曲は、毎年、深まりつつある秋に聞くと、何とも言えずにジ〜ンと来るが、10月に出たアルバム「EKSPRESSION」は改めて根強い人気を感じさせた。

 ・・・歌だけでなく文学も含め、日本全体で“言葉”のウエートが大変希薄になっているという実感があったのです・・・、小室哲哉君のサウンドがヒットしたのは“ダンス系”の人達に力があり、その間、“言葉”で闘う側が無力だったと考えるべきです。文句をいう前に、サウンドが中断してもいいほど引かれる“言葉”を提示しなくてはいけなかったのです・・・、子供から大人まで知っているヒット曲不在の状況になってしまった。例えば17才だけにウケる曲があったとする。すべての17才が買えば、計算上は200万枚に迫るミリオンセラーとなる。今の歌はそういう流通のされ方なんです。しかし私自身は、200万枚のベストセールスより、100万枚のヒット曲をつくりたいと思うんです・・・(「女は三角 男は四角」128頁−内館牧子著)、と小室系の音楽が全盛だった頃を作家・作詞家である阿久悠が的確に言い当てている。

 ノリの良い“ダンス系”は、ここ数年、ジワジワと脇に押しやられてきた。去年の日本レコード大賞を「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」の主題歌、コブクロの「蕾」が受賞したのは、その象徴だった。なるほど、歌の流行り方は阿久悠の指摘のように“ダンス系と言葉系”に分けられ、どっちに振れるかゆれ戻しの波が繰り返される。それから先は受け入れる側の時代背景、世相が影響する。“ダンス系”は一世代のノリだったし、時代もまさにドライな空気が漂っていた。厳しい時代になればなるほど、聞き手は“言葉”に反応し、自分を“言葉”の中に置き換える、かといって、演歌にまではもう辿り着かない。これはという売れた曲にならなくても、年代を越えてうねりとなるような“言葉系”の曲が流行りだした1年だった。今年の日本レコード大賞、「輪島朝市」の水森かおりにまで振れそうもないから、本命はEXILEのような気がするが、「そばにいるね」の青山テルマあたりもありそうか・・・、時代は聴き応えのある本物の曲へと流れている。
(青柳 剛)

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