□ 不機嫌な職場                                                          平成21年11月2日


 「不機嫌な職場」(講談社現代新書)、「書店員の今年のお勧めの一冊」に挙げられた人気本である。早く家に帰っても7時過ぎ、遅ければ10時11時、ともすれば12時過ぎに家に帰ることを繰り返している会社人間、家に帰ってもただ眠るだけの人も多い。翌朝は遅くとも7時半には家を出る。元気に現役バリバリで働いている人の生活のパターンはこんなところだ。改めて考えてみると、家にいる時間は少ない。睡眠時間を差し引いていけば、もう、極端に少ない。当たり前のことだが、人間は一生のうちで元気なときの時間の大半を職場で過ごしていることになるわけだ。人生の大半をすごしている職場だから、毎日を楽しく過ごしたい、みんなと楽しくやっていきたい、同じ仕事をするのにも気持ちよく1日を過ごしたい、おそらく誰もがそう思っている。

 良くも悪くも家の中の雰囲気を職場の中にまで持ち込みそうな日が月曜日、週初めの月曜日こそきちんと楽しい雰囲気で会社にやってくることが大切だ。月曜日は会社人間のサイクルが狂ってしまう日である。週末を家で過ごし、日曜日のもう長い間続いているテレビ番組「笑点」が流れてくるあたりから週末に終わりを告げる雰囲気が漂ってくる。その後「サザエさん」でも始まれば、もう日曜日の休息は終わり、頭の中を翌日からの仕事モードに切り替えなければならない。月曜日の朝に、スイッチを切り替えられなければ、一緒に働く職場の仲間はたまったものじゃない。休日の疲れを引きずられた雰囲気が漂えば、職場にはけだるさが漂い、てきぱきとした週の初めが始まらない。こんなことを考えながら、ここ数年、朝の7時15分開始の原則全員参加の早朝月曜会議を続けてきた。参加する人にとって辛い早朝の会議かもしれないが、パワーポイントの画像を見ながら発表を続ける会議は、週の始まりを確実なものにすることに役立っている。

 冒頭の「職場がおかしい。何か冷めた感じのする職場、ギスギスした職場が増えている」から始まる「不機嫌な職場」、ギスギスした職場にありがちな風景をいくつか挙げている。「おはよう等の挨拶もなく、皆淡々と仕事をはじめる」、「困っていても、手伝おうかの一言がない」、「イライラした空気が職場に蔓延し、会話がない」、「皆のためにと一所懸命頑張ったのに、反応が鈍い」、「何回頼んでも、誰もきちんと対応してくれない」、「熱意を込めた提案にレスポンスがない。それどころか冷ややかな反応が返ってくる」・・・、組織の中をフラフラ漂っているだけのボウフラ人間とどんなことにも我関せずのタコツボ人間が蔓延した組織のことを言っている。ほうっておくといつの間にか職場の雰囲気はこうなってくる、元気が無くなってくる。いろいろな対策が載っているが、第4章にでてくる「協力し合える組織に学ぶ」は面白い。創造性を発揮するためのグローバルレベルでの協力体制を生み出す仕掛けを作り出している「グーグル」、情報共有の例として「サイバーエージェント」、協力のインセンティブの事例として「ヨリタ歯科クリニック」が挙げられている。

 そんな中でも東大阪市にある「ヨリタ歯科クリニック」の話は身近な話として面白い。駅前の多くの歯科医院が集まる厳しいビジネス環境の中でも、患者が選ぶ歯科医院ナンバーワンだそうだ。患者のことを良く知るための「気づきカルテ」、患者がヨリタ歯科に来院したいと思う笑顔と笑顔になれる仕掛けの合言葉「smile―and―communication」、受付スタッフは「スマイルクリエーター」、そして週1回昼休みに開く「わくわく楽しいミーティング」、院長の「仕事は楽しくなければ前向きになれない。成功体験を通して次にはこうしたいという気持ちが出てくる。そうした前向きな気持ちを引き出してあげると人はどんどん伸びる」という言葉がこれらの仕掛けを裏打ちしている。いろいろな仕掛けの中で一人ひとりが前向きに生きていく力をつける職場である。一生のうちの大半を過ごす職場の雰囲気が悪くてはどうしようもない、たった一人が雰囲気を悪くするだけでも職場の雰囲気はあっという間に悪くなってしまう。組織の中の人間にとって、同じ数だけの人間ドラマを抱えている。抱えた悲喜こもごものドラマを職場に持ち込まれたらそれこそ収拾がつかなくなってしまう。人生の大半を過ごす職場、気持ちよく毎日を積み重ねられれば結果は後から付いてくる。先ずは月曜日、大きな声で元気よく挨拶を交わすことから始めていこうか・・・。(青柳 剛)

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