□ 政権交代バブル                                                       平成21年12月8日


 身体でさえ、同じことを繰り返していると反応しなくなる。ジムに通いだして、もういつの間にか、10年以上が経った。流石にプロテインを飲みながら足繁く通うこともなくなったが、テレビに出てくる岡田外務大臣のシャープな顔を見ているとジムに行きたくなる。「あの顔つきはジムで鍛えた顔だ、ただ単に痩せているのではなく、顔の脂肪をそぎ落とした顔だ」とすぐ分かる。一昨日に続いて今日もジムに行ってきた、空いた時間を見つけてのジム通いだから、なかなか身体はうまく反応しない。基礎代謝を挙げるために筋肉を程よく維持しながら有酸素運動を繰り返す訳だが、いつの間にか同じ運動の繰り返し、身体の刺激が鈍くなっている。慣れてしまうと、身体は反応しないし、変化もしない。身体でさえそうなのだから、ましてや、同じ人と会って、同じ地方にいて、似たような職業の人達と会ってばかりいると、いつの間にか、考え方まで慣れきって硬直化してしまうのである。

 あれは確か郵政解散総選挙になる1年前の秋だった。会場は「六本木ヒルズ」の49階セミナー会場だった。あの時の驚いた感覚は今でもしっかりと覚えている。地方に住んでいると、もう、毎日が小泉首相批判ばかり聞かされ、地方そのものが壊れていってしまうとの思いが強かった。そして、小泉改革の政策を支えていたのが竹中平蔵大臣、この人が地方を、日本を駄目にしているとの話題で覆いつくされていた。地方での不人気度は頂点に達していた。ところがセミナーのコーディネーターの米倉誠一郎の案内で竹中大臣が入場してくると、会場は割れんばかりの拍手が沸き起こったのである。この雰囲気には驚いた。小泉・竹中構造改革をこんなに支持している人がいることの驚きだった。話の中身も論理だっていて分かりやすい、構造改革を進めながら、いかに日本がグローバルな国際競争の中で生き残っていくかという実のあるセミナーだった。

 案の定、翌年の郵政解散選挙では自民党が大勝した。きっと六本木ヒルズの熱気が後押ししたのである。その後4年前と今の状態はまったく様変わりしたわけだが、今の政権交代の状況の中で竹中平蔵は何を考えているか、今の状況をどう見ているか気になっていたところだが、先日出版された本「政権交代バブル」−重税国家への道(PHP研究所)は面白かった。一気に読みきった。実力と評価との間に大きな差がある状況をバブル、民主党に風が吹き自民党に逆風が吹いたことによって起きた「政治的なバブル」に対しての警鐘を鳴らしている。バブルであり続ければ、バブルゆえにいずれ崩壊するとの指摘は正しい。新政権が今すぐに取り組むべきこととしていくつも挙げている。その中でも119頁、・・・「社会保障にお金を使えば経済は成長する」というのは間違いです。長期的に経済を成長させるためには、「資本」か「労働」か「技術」のいずれかのインプットが増えなければならない。お歳暮やお中元を贈りあっているだけでは全体のパイも広がらず、日本経済も成長しません。社会政策もこれと同じこと・・・、この指摘が意味するものは大きい。

 同じ環境にい続ければ、硬直した思考から逃れられない。身の置き方、視点を変えながら廻りで起きていることを考え直してみる。49階の「六本木ヒルズ」で起きていた竹中人気は、到底立場を変えなければ理解できなかったことだった。ここ何日かで新政権に対してマスコミの論調は極端に厳しくなりだしている。それでも相変わらず国民の支持率は50%を超えている。国民の支持は政権が変わったことへの期待が続いていることの表れである。政治の中身と期待に齟齬が出始めている。厳しくなりだしたマスコミとの差を埋めることが出来なければ、「政治バブル」は崩壊する。「政治バブル」が繰り返されていくならば、そのツケはいつも国民に巡ってくる。竹中平蔵の主張が浸み込むように読みやすいのは、見方を変えて読みだすからに他ならない。立場を置き換えながら、その間を行ったりきたりしながら思考は深まっていく。同じことが続いていくことはあり得ない、身体でさえ反応しなくなる。そう思いながら最近はジムそのものもビジター、いくつか変えだした。(青柳 剛)

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