□ 時代は身の回りから変わる                                              平成22年5月17日


 時代は変わる、かといって、朝目が覚めたら急に何もかもが変わっているということはあり得ない。小さなことから、身の回りから、少しずつ時代は変わっていくのである。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、汐留、品川、東京駅周辺と大規模開発が続いてきた。ここに来て大規模開発の波もやや落ち着いた感もあるが、大崎駅周辺の開発が進んでいる。大崎と五反田が結びついてしまうような勢いで進んできたが、日毎に高さを増しながら全容が見え出したのが、山手線の外側、大崎駅西口の一帯である。その中でも、2011年の竣工を目指して工事の最盛期の建築が地上25階建てのソニー新社屋である。シンクパーク、大崎ウエストシティタワーズと一体になって西口の風景は一気に変わっていく。

 ところで、都市の風景はこうして大きく変わっていくが、先日面白いことに気がついた。建築家のスタイルも身なりから変わりだしたのである。ソニー新社屋の設計は日建設計の山梨設計室である。神保町シアタービル、昨年竣工した新木場の木材会館など話題作を発表し続け、平均年齢34歳の注目される若き設計集団だが、「日経アーキテクチャー」(2月22日号)誌にスタッフ全員の集合写真が載っていた。写真を見ているとそれぞれ個性ある顔つきだが、今まで建築のデザイン分野の人たちにとって定番だったスタンドカラーというかバンドカラーのシャツを着ている人は一人しかいないのである。みんなダークグレイ系のジャッケットに細身の股上の浅いズボンにノーネクタイの白いシャツ、いつの間にか、磯崎新も安藤忠雄も伊東豊雄も着ていたスタンドカラーの書生風建築家スタイルはもう消えつつあるのである。

 身なりとしてのスタイルが変わったからといってそれほど変化は起きないだろうが、建築のデザインに直接影響するのは身近な設計する道具である。これは大きく影響を与えてきた。例えば、T定規から平行定規そして15度単位に角度を変えることができるドラフター、そして今の主流となったCADを使ったコンピューター技術、道具の変化と共に建築の表現も変わってきたことはあまり語られていない。T定規から平行定規になった途端に水平線を描くことが容易になり、長い水平ラインを強調した建築がつくられるようになり、角度を切り換えられるドラフターは水平・垂直以外の斜めのラインを多用した建築デザインを生み出した。そして、コンピューター技術、最近の伊東豊雄の建築作品のように、楕円はもちろん、それ以上に自由自在なかたちの建築があちこちに建ちだしたのである。

 大きな流れの中で時代は変わり続ける。それでも身近な小さなことの積み重ねで変わっていく。新年度があけた、ここに来て急激な変化を求められているのが建設産業、建設専門誌に取り上げられた各社の社長の新年度の挨拶を拾ってみると、「変化」と「チャレンジ精神」に集約される。今の時代を反映している挨拶である。公共投資の量も減り、公共投資調達の仕組みも変わりだした。これから先、この何年かでスタンドカラーを着なくなった設計集団が東京の風景をお洒落に変えたように、業界自体も大きく変わっていきそうだが、大きく変わっていくには小さな変化が予兆のように垣間見える。平成22年度、取り敢えずは、気持ちも身なりも新たに「挨拶励行」、「整理整頓」あたりから始めていこうか・・・。(文中敬称略)(全建ジャーナル 5月号)(青柳 剛)

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