□ アリエッタ                                                        平成22年7月31日


 東京には地方にないものが何でもある。ジムでみっちり時間をかけて、有酸素運動と筋力トレーニング、カロリーを消費した所為かも知れないが、去年の秋、散歩をしながら入ったイタリア料理のピザの店、五反田「アリエッタ」の味が格別だった。「アリエッタホテル」系列の店だが、ホテル並びの別棟になった2階建てのこじんまりとした店である。1階はカウンター席のみ、14〜5人も入れば満員になってしまう。初めて入った店だから何を頼んで良いか分からない、休日ののんびりした気分も手伝って、ハウスワインのロッソをグラスで一杯だけ頼み、ランチメニューにした。シェフやスタッフが眼の前で小気味良く動きながら、ピザの生地を上手に伸ばし、焼きあがったばかりのピザが釜から取り出され、カウンター越しに出てくる、そんな雰囲気が気に入って、あの日以来、月に1〜2回食べに出かけている。

 店を訪れる回数を重ねるごとにピザのメニューもワインもこだわりだしたが、その他にも、東京に出かけると食べたくなる料理がある。とりわけ「とんかつ」を無性に食べたくなる。これはもう何年も続いてきた。月に一度のペースで東京の理髪店に出かけた後、必ずといって良いほどランチで「とんかつ」を食べている。こちらは「アリエッタ」と違って、店の雰囲気はどうでもいい、アツアツに揚げた「とんかつ定食」ならば何でも良いのである。チェーン店の「さぼてん」、「和幸」などがお気に入りだが、その中でも、欲を言えばチェーン店であっても、お客が沢山出入りしている店の「とんかつ」が美味い。揚げ物だからカロリーが高すぎだとは思っていても、「月に一度ぐらいならまあ良いか!」と自分に言い聞かせ、濃い目のソースを千切りのキャベツにまでたっぷりとかけ、口の中が火傷しそうな勢いで「とんかつ」を食べている。

 東京での食事といえば、亡くなって15年近くが経ったが、ひと回り年上の食通の友人がいた。自分で台所に立って料理をするぐらいだったから、余程料理が好きだったのだろう。食通を絵に描いたような大きな体格までしていた。その友人と何度も東京に出かけた。2ヶ月に一辺ぐらいの割合で出かけただろうか、朝の5時前に迎えに来て、そのまま2人で高速を飛ばしながら車で東京に向かうことを繰り返していた。あちこち廻りながら食事を摂ることになるのだが、東京での食事にいつもこだわっていた。何を食べていたかというといつも中華料理だった。皇居のそばのパレスホテルの中華だったり赤坂の中華料理だったりした。「東京で食べるんなら中華が美味い、地方で食べられないものがいいんだよ。和食の刺身なんかは今の時代どこでも新鮮なものが食べられるし・・・、うまい中華は東京だよ!」と言いながら、東京に出かける度に昼から中華料理を食べていたのである。

 東京には何でもあるが、そんなに高価でなくても、東京での食事は地方の料理と少しだけ違ったものがいい。確かに地方に住んでいて、ピザもないことはないが、決まりきった宅配ピザが主流だ。「アリエッタ」も東京の中では飛びっきり美味いピザではないだろうが、お客が沢山いて眼の前で出来上がるピザを食べる雰囲気を地方では味わえない。「とんかつ」は家で揚げるのには手間隙かかるし、お客がどんどん入る都会の「とんかつ」の味には地方の店では太刀打ちできないものがある。食通の友人が言っていた中華料理こそ、都会のお客の舌で鍛えられる。地方で食べる中華料理はどこか物足りない。全国津々浦々、似たような料理はどこにでもあるが大都会でしか味わえない味がある。しばらく出かけていなかった「アリエッタ」、ロッソのワインを飲みながら、前菜の「カプレーゼ」を頼んでピザの「マリナーラ」、そのうち又食べてみようかという気になってきた。(青柳 剛)

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