□ 直売所から学ぶ「価格と価値」                                        平成25年4月5日


 日曜日の昼に食べた「フキノトウ」のてんぷら、飛びっきり美味しかった。この感激を知らせたくて今年は「フキノトウ」のてんぷらをフェイスブックのカバー写真にまで取り上げた。匂いで春を感じさせる食べ物だ。昭和村インターチェンジそばの野菜の直売所「旬菜館」、「フキノトウ」を毎年こうして手に入れる。今年は一緒に「手打ち蕎麦」も買ってきた。食後は「蕎麦湯」の香りも自宅にいて味わえる。直売所に日曜日の朝方出かけて、その日のうちにパリッパリッの新鮮な農産物を思う存分食べる贅沢、地方に住んでいて良かったと思えるひと時だ。この感覚は都会に住んでいてはなかなか味わえない。もう少し経って、「サンショウ」が出るようになると山菜も次から次へと並ぶようになる。ウルイ・フキ・ワラビ・山ウドから始まってタラノの芽、つくし、コゴミ、コシアブラ、山わさびも置いてある。秋にはキノコ、それこそ滅多に採れない天然の「ハツタケ」までここで手に入る。春先から秋の終わりまでこうして珍しいものと新鮮な野菜、どんどん並べられて楽しいが、「直売所の買い方」にも工夫が必要、この地域に数ある直売所、それを直接支える農業生産者によって少しずつ異なっている。

 「旬菜館」とは別の直売所のことだったが、先日高崎で出席していた祝賀会で挨拶をしていた人の一言が気になった。「いつだったか、直売所で枝豆を買ってきた。その枝豆を家に持ち帰って食べてみたらどうしようもなく不味い。何でこんな枝豆しかできないんか?と思って地元の農政通の有力者に話したら、『うまい枝豆を送るから』と言って今度はものすごく美味しい枝豆が送られてきた。あれはどういうことなんだろう?」という話だったような気がする。周辺の利根沼田の直売所のことだった。この人も農政通、敢えて話題を農産物に絞り、美味い枝豆のことを掘り下げて知っている有力者を褒めていた。そう言えば東京に住んでいる親戚も「こちらに出かける度に主人が直売所で買い物をすることを楽しみにしている。車に乗せてたくさん買ってきてもそれがいまひとつなのよねえ、新鮮でいいんだけど」と同じようなことを言っていた。どうも我が家の直売所の「いつもシャキシャキうまくてたまらない」、あの感覚と違う、直売所で手に入れるものは新鮮でどれも美味しい筈だと思っていた。

 そう、答えは簡単、「安い野菜」を買ってくるからあまり美味しくないのである。特に男の「お使い」買い物は「直売所で売っているものは安いもの」と信じて買うから安物選びになってしまう。直売所では値段と品質は綺麗に「マーケットの論理」が働いている。分かりやすく言えば、値決めは農業生産者自身で行っている。直売所の職員が決めているわけではない。自分の作る農産物がどの程度の価値があるか、どの程度の品質か、どういった味なのか、生産能力が地域の中でどの程度の位置にあるかも、みんなそれぞれ生産者が分かっていながら値決めをしているのである。「あそこの家のホウレンソウが200円ならばうちはもう少し下げて180円でなければ売れない」と考えながら値札をつけている。中途半端な値を決めて、売れ残れば全部持ち帰りだ。何にもならない、これこそ厳しい「価格と品質」の論理が渦巻いている。恐らく枝豆を買った農政通も親戚も、農産物の中身を吟味することなく、ただただ安いものを選び、カゴに入れて持ち帰ったのであろう。そこに行くと主婦の眼は鋭い、多少高くても所詮野菜、街中のスーパーよりも安い、美味い物を選んで買っている。

 直売所で売っている人も、「どの農産物が美味いか」みんな分かっている。レジの人でもだれでもいいから店の人に聞けばいいような気がするが、どれがいい商品か教えてはいけないことになっているそうだ。なるほどそんなことをすれば、生産者に平等の精神が欠けて行ってしまう。この辺は外で見ているだけではなかなか気づかない。マーケットの論理が激しく渦巻く場が直売所、昭和村の「旬菜館」の野菜を支えているのは大規模農家の生産者、ハウスで栽培された野菜が年明けとともに並ぶ。それに較べて来場者数の多さでは日本有数を誇る川場村の「田園プラザ」、農産物の出荷ピークは春後半から夏、昭和村とは異なった生産形態の村内の生産者が支えている。最近は来場者でインターチェンジまでつながりだす人気だ。似ているようで直売所はそれぞれ異なる。「価格と品質」というか「価格と価値」、直売所から学ぶ論理から教えられることは多い。土地を耕し肥料まで、工夫した良い品物をつくれば高く売れ、そうでなければ価格で勝負の厳しい世界か。それでも地元の買い物上手の主婦に言わせれば、「形は悪く、不ぞろいだが新鮮、よく見れば安く美味しい品物を手に入れることができるのが直売所」、これもなかなか面白い。(群馬建設新聞 4月3日)


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