□ゆるやかな連携 職人を育てる町                                                   平成26年8月26日


 「現場の主要職種はそろそろ直庸化、いや準社員のような形で囲い込まないと技能労働者は育たないし、入職してこない。人手不足はもうここまで来ている」と言っていたのは大手建設会社の幹部だった。1uあたり500円、日給もそれこそ1万円以下の「ワンコイン大工」などと揶揄され、下がり続けてきた職人の年収を上げることはもちろんだが、休日確保など処遇改善を含めた対策を総動員、「人材確保・育成」はそれこそ待ったなしの状況だ。それでも年間見通しや将来見通しが立たなければ人は入ってこない。どんな対策よりも先ずは人生設計がきちんと出来ることが求められているから冒頭のような話になってくる。地方の個別の中小建設業にとって将来見通し、現場で働く人たちが年間を通して働ける環境づくりは難しい。仕事が空いてしまう時期は出てきそうだし、事業量が見通せるような環境にはなかなかなりそうもない。

 6月25日、全国建設業協同組合連合会(全建協連)「専務理事・事務局長会議」と(一財)建設業振興基金の「金融事業説明会」が霞が関ビルで開催され、全国で41の組合が参加した。組合受注、情報の共有化システムなど特色ある3組合事業の発表なども終わって懇親会、「人材育成には、若者の一生を引き受けるという覚悟がいる」という振興基金の理事長挨拶の後に役割が回ってきた。「減り続けてきた事業量、経営者は仕事を受注することに集中してきた。人材確保・育成には手が回らない、いつも場当たり的な対応を迫られてきた。結果、一番手間暇かかりそうな人材確保・育成に苦手な業界体質が出来あがった。この体質を引きずってきた地方の中小建設業、正面から人材確保・育成に取り組まなければならないから、事は一層深刻になる」ということから始め、その前の週に地元の板金屋さんの研修施設を見に行ってきた話をして締めくくった。

 そこには、今建設業界で総力を挙げて取り組んでいる「人材確保・育成」の課題がすべて詰まっていた。「人がいない、人さえいればどこにでも行って仕事が出来る、日本一の板金屋になろう」と向上心の塊のような、真っ黒に日焼けした42歳の社長の「教えよう 育てよう」という気持ちがかたちになっていた。自前で3000坪の土地を買って簡便に作り上げた訓練施設、今年の春商業高校を出たばかりの社員5名とインドネシアからの訓練生3名、三重県の同業者の跡取り息子兄弟が2人、10名の実習生が手に職をつけようと頑張っている。5年目に入るという。3か月間でのカリキュラムも社長の手作り、「職人を育てよう」という熱意こそ「人材確保・育成」には欠かせない。

 7月14日、全建協連・振興基金主催の研修施設見学会、「何よりも現場を見るのが大事」ということだろう、国土交通省からは大勢の関係者が参加した。地元の市長なども急遽駆けつけた。歩行訓練や屋根伏せ訓練、鋏み訓練、ビス打ち訓練などの基礎訓練を見学した後、訓練生との意見交換会が熱気でムンムンする室内で行われた。「手に職をつけることがカッコよく思えて入社した!道具も触ってみれば楽しい、・・・」など訓練生の声を聞くことが出来た。地域の中で小さいながらも「人材確保・育成」に向かう姿勢から学ぶものは多い。「人材確保・育成」は地域のネットワークの中から、育てようというリーダーがその地域にどれだけいるかということ、そしてそれらを支える将来に亘っての見通しは組合的な「ゆるやかな連携」の中にヒントがある、方策はこの3点にまとめられそうだ。視察後提案された「地域の関係者連携による人材確保・育成方策、職業訓練のスキーム」(案)、「職人を育てる町」構想で動き出してみたらどうだろう。(建設通信新聞 8月25日)


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