□「当たり前の感覚」と「限界工事量」                   平成28年6月7日


 「今年の総会、前で見ていても例年よりも出席者が多かったような気がします。会場の雰囲気も張り詰めていました。最近では、他の団体にはもうあまり見られなくなってしまった光景です」。前列に座った来賓が感想を述べながら帰っていった。大沢正明群馬県知事、岩井均群馬県議会議長をはじめとして群馬労働局長・国土交通省・群馬県など我々の業界に直接関係する行政の人たちをお招きして、平成28年度の群馬県建設業協会の総会が無事終わった。5月、総会シーズンの中でも先ずは建設業協会の総会がスタート、その後に他団体の総会が開催されることになる。建設業協会の総会が終わると一気に肩の荷が下りたような気分になる。総会といえば、事業報告・決算・予算といった決まりきったことの運営になりがち、出来るだけ出席した会員にとってメッセージ性のある総会となるようにと心がけている。

 冒頭の会長挨拶では昨年度の業界のまとめからスタートした。業界の真ん中から少し外れた視点で業界を見ることによって見えなかったものも見えてくる。巻き込まれ感が消えていく。昨年の4月からスタートした「品確法の運用指針の具体的な展開」こそ業界の制度をどんどん変えていくきっかけになったことを再確認することが大切だ。適正利潤の確保のための制度改正が矢継ぎ早に打ち出された年度といえよう。5年前まで下がり続けていた「設計労務単価」の連続した引き上げに始まり、「現場経費率」の見直しや「一般管理費率」の引き上げ、そして「監理・主任技術者対象要件」の金額の引き上げ、今までどんなに要望しても変わらなかった「交通誘導員単価」の直接工事費の組み込みなど、どれを挙げても「運用指針の具体的な展開」の効果が大きかった。業界の真ん中にいるとどの改正もいつの間にか「当たり前の感覚」になってしまう。新鮮な感覚で受発注者間のやり取りが繰り返されればされるほど実効性のある改正がどんどん生まれてくることになる。

 新年度明け早々に「限界工事量」という言葉をあちこちで積極的に使いだした。県内各地で聞こえ出した会員の声を聞きながら生み出された言葉だ。皮膚感覚で自然に出てきた言葉のような気がする。「これほど仕事がないと、もう、これから雪かきもできなくなってしまう」「災害が起きたらどうなるんだろう」「社長の給料も切り詰めた、そろそろ作業員の数も減らさなくてはならない」・・・。地域が崩壊してしまうほど事業量が減少したという声である。「限界集落」を彷彿させるその地域にとってのギリギリの事業量が「限界工事量」。分かりやすい。ここまで事業量が減りだしてくると今年度の行動指針も変えなくてはならない。「人材確保育成と生産性の向上の取り組み」に加えて「限界工事量を意識した取り組み」を組み込んだ新行動指針・「入ってみたい建設業から入ってよかった建設業へ」Ver.2を発表する総会となった。

 そういえば出席者も多く、緊張感が伝わってきた今年の総会だった。会員にすれば、「今年度は、どんなメッセージが発信されるか」気になるところもあったのかもしれない。情報をしっかりと発信し続ければ組織は活性化してくる。それ以上に今年は「このままでは仕事がどんどん減っていってしまう」と蔓延しだした危機意識が緊張感へとつながった。社会保険未加入問題からスタートし、処遇改善のための制度が次から次へと打ち出されるうちに出来上がってしまった「当たり前の感覚」、そしていつの間にかギリギリの事業量になってしまった「限界工事量」との間で戸惑う地方の業界。6月、全国建設業協会をはじめ他県の協会の総会も概ね終了した。緊張感を持った危機意識が次のステージへと向かった活動へと結びつけられるか試されている年度が始まった。(平成28年6月7日 日刊建設工業新聞)



ご意見、ご感想は ndk-24@ndk-g.co.jp まで

「森の声」 CONTENTSに戻る